第134話 漂流大学①ニセモノの孤独

「我猛くん、さっきの大地震ビビったよね。」


「ダイラくん、僕は怖さのあまり、彫刻科研究室に駆け込みましたけど、教授や講師、助手たちがいないんです。」


「どっかに逃げたんだよ。」


「そうなのかな、ダイラくん、ムサビの正門を見たかい?」


「え?もしかして崩れちゃったの?」


 ダイラは我猛くんの後をついて正門まで行き、驚愕の事実を知ることになる。


「何これ?この正門から先が真っ暗闇じゃないか。しかも、地震の後、どうも暗いなぁと思っていたけど、ムサビ周辺が見渡す限り闇になっている!」


 その時、ダイラの足元のコンクリート破片が、ゆっくりと剥がれ落ちた。破片は闇の中に音もなく吸い込まれていった。


「何か大きな爆発があったのかもしれません。そして僕らムサビに通う学生だけが取り残されたようです。」


「そんなことある?ただでさえ、世間から取り残されている存在なのに?我猛くんの博識で、この状況を説明してくれよ。」


 そこに、3日間くらい何も食べずに制作していたであろう、油絵科の田沼くんがぼ~と正門に向かって歩いていった。


「田沼くん、その先は行ってはダメだよ!危険だよ!」


 田沼くんは、よろけながらもこちらを向き、手を振っている。本人は多分、先ほどの地震で目を覚まし、周囲が暗いため深夜であると誤解していたようだ。左手で焼酎のビンの飲み口をつまんでいる。


「そこは漆黒の沼だ!」我猛くんの高尚な物言いに田沼くんは笑顔だった。


「こんな大学辞めてやる~。オレはここを出ても自由にやれるんだ!」と田沼くんは笑いながら闇に消えていった。


「ダイラくん、田沼くんが落ちちゃいましたね。」


「在学中に、教授とケンカして、酔って正門で毒を吐いてを出て行った奴は何人かいたなぁ。オレは一人でやれる!と豪語しながら、世間の荒波に沈められた仲間を思うと、彼もきっと本望だったんじゃないかな。」


「タローマン第8話、奇獣傷ましき腕でも、似たような場面がありましたね。折角、タローマンに助けてもらった文人が、孤独にして欲しかったと与太を言ったら、タローマンに宇宙に連れていかれた回を思い出します。」


「環境に恵まれ過ぎていると、周囲の協力や支援のお陰で今の自分が辛うじて芸術っぽいことをやれていることを忘れるんだよね。」


「大体、大学で毒を吐いている内は、本当の孤独を知らないですもんね。」


「そうそう、大学を出てからの孤独感は、ここにいる教授たちを見ていてもよく分かるよ。」


「個人プレーで協調性無しです。集団の中でも、いかに孤独でいられるか競争してますよね。」


「孤独こそ人間が強烈に生きるバネだと岡本太郎も言っているし、グアムで逃避生活をしていた横井正一も、正しく強烈だった。」


「横井さんは本物の孤独に耐えた人ですね。」


「最近の孤独族は、一種のブームとも言えそうだなぁ。横井さんみたいな生活ができる人はそうそういないからね。まぁそれは置いておいて、我猛くん、ムサビの敷地内が他はどうなっているか、調査しないと。」


「もしかしたら、この暗闇の原因がつかめるかもしれないですものね。」




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