第328話 「地面師と禅問答」inハウス栽培

クワヤマダくん「ダイラ先輩、最近また“特殊照明作家”として大活躍ですね。特にあの『ハウス栽培』でのバオバブ事件、すごいことになってましたよね。詳しくお話を聞かせてもらえませんか?」


ダイラ(微笑みながら)「あれは本当に驚いたよ、クワヤマダくん。計画ではバオバブの木が個展の中で少し成長して、空間に変化を与えるって狙いだったんだけど、まさかあそこまで巨大化するとはね。結局、ギャラリーの壁が耐えられなくて、根っこが建物を飲み込んでしまった。」


クワヤマダくん「バオバブがギャラリーを破壊するなんて、まさにアートが現実を超えた瞬間ですね。で、その後、ギャラリートークはバオバブの木の上でやったって本当ですか?」


ダイラ(笑いながら)「そうなんだよ。もはや、地面がバオバブの根で埋まっちゃっていてね。ギャラリートークも、地上でやる場所がなかったんだ。それなら木の上でやるしかないだろう?でもそれが、結果的には面白い体験になった。アートって、予測不能な展開になるときが一番魅力的なんだよ。」


クワヤマダくん「それがアートの醍醐味ですよね。でも、そのバオバブがあんなに大きくなったのは、ダイラ先輩の“特殊照明”が何か関係しているんですか?あの照明が木に影響を与えたとか?」


ダイラ(少し考えながら)「可能性はあるね。照明というのは、単に光を当てるだけじゃなく、空間全体を作り出す力を持っているから。僕たちが思っている以上に、光には物理的にも心理的にも影響を与える力があるんだ。だから、バオバブが予想外の成長を見せたのも、あの照明が自然に刺激を与えた結果かもしれない。」


クワヤマダくん「なるほど、照明の力ってすごいですね。でも、最近話題になっている“地面師”の話と、ダイラ先輩の照明技術って何か共通点がある気がするんです。どう思います?」


ダイラ(笑みを浮かべながら)「面白いところに目をつけたね、クワヤマダくん。地面師っていうのは、存在しない土地を本物のように見せかける詐欺師だろう?でも、彼らがやっていることは、ある意味で僕たち照明作家と似ているんだ。彼らは虚構を現実に見せかける達人。僕たちも、光と影を使って、実際には存在しない世界を作り出す達人だ。現実をどう見せるかは、光の当て方次第ってわけだ。」


クワヤマダくん「照明も、地面師のトリックも、どちらも現実と虚構の境界を曖昧にする…でも、ダイラ先輩は騙すためにやっているわけじゃないですよね?」


ダイラ(真剣な表情で)「もちろんだよ、クワヤマダくん。僕たちがやっているのは、むしろ問いかけなんだ。光と影を使って、“現実とは何か?”という問いを投げかける。実際のところ、僕たちが見ているものがすべて真実かどうかなんて、誰にも確証はないだろう?照明作家も、地面師も、観る者の感覚を揺さぶり、現実をどう認識するかを問う存在なんだ。」


クワヤマダくん(深く考え込んで)「確かに、僕たちが日々見ている世界も、何が真実で何が作り物なのか分からなくなりますよね。照明でそんな問いかけができるなんて、すごいことです。これって、禅問答?」


ダイラ(頷きながら)「そう、照明を通して見せるのは単なる光ではなく、そこに隠れた物語や真実だ。先週のパフォーマンスでも、光と影で建物が崩れそうに見える演出をしたら、近所の人たちが本当に崩壊すると思って警察や消防に通報しちゃったんだ。おかげで街中が大騒ぎさ。」


クワヤマダくん「そんなことがあったんですか!?」


ダイラ(笑いながら)「そのおかげで、実際にその土地を狙っていた地面師の一味が、騒ぎの中で慌ててボロを出して逮捕されたんだよ。彼らもまた、虚構を作り出して現実を操作しようとしていたけど、結局は自分たちが現実に飲み込まれてしまったんだ。」


クワヤマダくん(感心しながら)「まさに、現実と虚構の境界が崩れた瞬間ですね。アートがそんな風に現実を暴く力を持っているなんて、改めてすごいです。」


ダイラ「そうだよ、アートってのは、ただ見せるだけのものじゃなく、現実を再構成する力を持っているんだ。僕たちが作り出す光と影は、観る者に新しい視点を与える。だからこそ、僕たちがやっていることには、ある種の責任も伴うんだよ。」


クワヤマダくん(深くうなずいて)「ダイラ先輩の照明が、ただの演出じゃなくて、現実を超える力を持っているってことがよく分かりました。僕もそんな風に、光と影で何かを問いかけられる作品を作ってみたいです。」


ダイラ「その意気だ、クワヤマダくん。未来のアートは、もっと自由で、もっと予測不能なものになるだろう。僕たちは、光と影を通じて、現実に新たな視点を投げかけ続ける。そうやって、未来を作り出していくんだ。」


クワヤマダくん「ええ、僕も照明の力で、もっと新しい世界を創り出してみます!」


ダイラ「楽しみにしているよ、クワヤマダくん。さあ、次はどんな光と影を描こうか。」


クワヤマダくん「とりあえず、防災グッズに特殊照明を入れます!」

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