第209話 暇と退屈の妄想学

「クワヤマダくん、休日くらい仕事を休んだ方がいいんじゃないの?ちょっと動き過ぎなんじゃない。かなり疲労しているようにみえるけど。」


「ダイラさん、実は僕、いくつになってもとしていられないのです。働いているときは早く休みが欲しいと思うのですが、休日になると反射的に家を飛び出してしまうのです。」


「オレもその感覚分かるなぁ。とにかくとしていられない。人生フル回転中だよ。」


「フランスの哲学者パスカルが、『人間の不幸などというものは、どれも人間が部屋にじっとしていられないがために起こる。部屋でじっとしていればいいのに、そうできない。そのためにわざわざ自分で不幸を招いている。』と言っていました。」


「ムサビの彫刻科にいたときに、そういう同級生や先輩、講師や教授陣も多かったなぁ。とにかく皆動き回っていて、中々つかまらない。自分自身も動き回っているから、膝を交えてゆっくり話すなんてなかったなぁ。対話をしているときでも、心は別の世界に行っているから、人のアドバイスや忠告なんかも上の空。気が付いたら、卒業式だったみたいな。」


「そういうのは、パスカルが言うところの、不幸を自ら招く人間の本性ということでしょうね。」


「幸か不幸かは人それぞれだけど、じっとしていることの方が不幸と感じる生き物なのだから、動き回っている行為に幸せを感じちゃっている。」


「暇を埋めるためにウサギ狩りに行く人にウサギを手渡したら意味が無い。それはウサギ狩りに行く人にとっては退屈な時間となってしまう。」


「目的はウサギではなく、ウサギを狩る工程なんだよね。それも分かる気がする。日常を退屈に過ごさないために、暇な時間にイベントを生み出す。それはアーティストは得意かもね。」


「人間が定住生活を始めたのはここ1万年前くらいからと言われています。その前は遊動生活を3万年やっていた。じっとしない生活の方が長かった。多動性はDNAレベルで刻み込まれている。部屋を片付けない、ゴミの放置は遊動生活者としては当たり前だったようです。いらないものは放置して自分たちは豊かな場所へ移動すればよかったのだから。定住生活になったことで、本来持っていた遊動感覚が活性化し、農耕や文化、好戦的な性格がつくりだされたとも言われています。この混沌とした今の世界は定住した人間の妄想の成れの果てとも見えます。」


「定住したことで暇な時間が生み出され、暇を退屈にしないために妄想力が活性化した。大切なことや意味のあること危ないことって、目には見えないことが、ここ数年のパンデミックやロシアのウクライナ侵攻で実感した。定住化した人間の妄想や物語が膿となって噴出しているように思えてきた。やっぱり、人間は宇宙に遊動するべきときが来たのだね。地球を捨てて、豊潤な資源があるどこかの惑星へ移住するときだ。」


「僕たちが見ているものって、結果なんですよね。誰かが見えなかった物事や概念に形や色や言葉をつけ認知できるようにした。定住者の遊びの延長のようにも思えます。ウイルスが透明だって気付いた人が特殊な顔料で着色したことで、見えない相手が認知できた。それ自体は凄いことだけど、それだけでは満たされない人間の妄想力で見えない物事を利用しいる。不安を煽りながら商売している人も出てきた。結局見えない相手だから落としどころが分からなくなる。見えないものに価値をつけることは、諸刃の剣だ。」


「僕たちが表現活動することは、この世にまだ見ぬ何かに形や色をつける行為なのかもしれません。でもそれは、暇な人に退屈な時間を提供しないための行動なのかなと思うと、少し空しくもなります。現代の人間として生きていくためには、この歯車から脱することは難しそうです。ダイラさんの言う通り、僕は次の新しい刺激を求めて、地球を飛び出したくなってきました。」


「宇宙へ遊動したとしても、人間でいる限り、このサイクルからは出られないと思うけどね。」


「この今の世界の流れは、新たな戦前になっていますよね。皆気付いていますよ、日本はやばい周辺国から狙われていることを・・。僕、怖くて仕方がありません。」


「2023年はウサギ年だね。ぴょ~んと月まで行きましょうか。」


「月もすでに、大国に支配されていますよ。」






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