第229話 コオロギ食のハードル

「ダイラさん、長野県出身の奴がまたイナゴの佃煮を送ってきました。一緒に食べませんか?」


「おお!イナゴはオレも好きだなぁ。カリカリしていて、美味しいよね。」


「僕は苦手です。だって、あいつら見た目バッタですよね。バッタはちょっといただけません。モグモグしているときに、イナゴの足が歯茎に刺さる感覚がダメでした。」


「イナゴはよくて、バッタはダメな感覚をもつ人が多い気がする。」


「イナゴもバッタも同じバッタ科ですけどね。稲を食うイナゴ(稲子)は、稲の葉を食っている害虫だから、米を大切にする心理的な部分が働いて、もったいない精神で食べているのではないでしょうか。」


「見た目も茶色くて、稲と同化して見えるし、まぁ食ってもいいかなと思ったのかな。害虫だから食ってやる、元を取ろうという概念?」


「最近流行りの昆虫食も、人口100億人を突破した世界では、主流になりそうですね。昆虫ハンバーグを食べてる人を見たことがあります。」


「昆虫好きな長野県民は生き延びられそうだ。」


「でも、長野県民の奴が言うには、イナゴはいいけど、コオロギはダメみたいですよ。」


「え?同じじゃないの?」


「楽器は食えねぇそうです。夏場のコオロギの音色を聞いて育った長野県民は、コオロギを楽器だと思っているようです。」


「確かに、あんなきれいな音色を出す昆虫を食うなんて、罪悪感があるかもしれない。でも、音色を出すのはオスだけなんだから、メスを食えばいいんじゃないの?」


「男女に差をつけるのは更によろしくないようです。」


「イナゴは害虫感があるけど、コオロギはオーケストラの感覚はあるわ。食えない理由は理解できる。」


「どこかの学校でコオロギ食が出たけど、大ブーイングだったとか。」


「飼育コストもリーズナブルで環境にも優しく、栄養価も高いとくれば合理的にはコオロギを主食にしてもいいのかもしれないけど、イメージがよくないね。」


「くじらやイルカを食べましょうと推進できないのと近い感じがする。」


「人間に愛されている昆虫なんだよね。カブトムシやクワガタ、犬や猫が食用にならない理由はそこにある。人間の感性をくすぐる動植物は食えないんだわ。」


「もし、コオロギ食を一般化するなら、コオロギと呼んではいけない。」


「ハンバーグの粉とか、タンパク質パウダーという名称にすれば、いいのか?」


「韓国語でパンゲ、タイ語でジンリート、なんかいけそうな気がする。」


「でも、そこまでしてコオロギ食を進める必要があるの?そのうちゴキブリ粉何パーセント混ざったブレンド昆虫食は安いだとか売られそうで怖い。」


「まぁ。そのくらいやるのが人間、大人しく昆虫でも食べましょう。」














  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る