ビエンダイラ

第181話 縄文のゴシップビーナス

「あぁ。こんな形になったぞ。」


「あらま。おめぇ。この頭はなんじゃ。」


「平たくして、てっぺんに渦巻いといた。」


「さすがにこれは平たすぎるやろ。この渦はなんじゃ。」


「つむじじゃ。」


「だっせ~頭じゃのう。」


「んだば。村長の野郎が、尻はデカく胸は小さめにしろっちゅうんだから。遊ぶところは頭だけじゃろ。」


「まぁ。あの村長はそこのラインさえキープしていれば、あまり気にしねえって言っとったわ。」


「あの村長の野郎の趣味も微妙だよな。オレらは顔の形を結構こだわっていたのに、顔はどうでもいいっつうんだからさ。」


「この前なんか、太ももと腹だけでかくしておいて、顔を適当に逆三角にしても、村長の野郎は何も言わなかったよ。」


「壺とか器にも遊び心をもてなんて言うからさ、ゴテゴテと余計な形をくっつけたけど、あれ女子に評判悪いんだよね。」


「使いにくいからな。大陸から来た連中がシンプルで使いやすいもん作っていたけど、ああいう物の方が流行るよな。」


「・・・・・。」


「ダイラさん、5000年前の縄文人はきっとこんな会話をしていたんじゃないかと思いますよ。」


「クワヤマダくん、この土偶ガチャポン面白そうだよ。」


「これって、縄文時代のゆるキャラって感じですね。」


「この造形は癒しだよなぁ。見ていて全く腹が立たない。きっと穏やかで気のいい人たちが作ったように感じる。でもこの形を見て笑っちゃうのはなぜだろう。」


「僕はこの土偶はある意味変態チックに見えますけどね。」


「仮面の女神という名がついているこの像は、正面の下腹部には女性器が作られているけど、仮面の後ろは亀頭だよね。」


「わぁ。本当だ。ダイラさんの新説ですか。」


「女性器と男性器とお腹の膨れ方や体に刻み込まれた模様は、縄文人ならではの科学的な思考をしているようにも見える。人間と自然、宇宙を総まとめにしたような造形だ。と言いたいところだが、クワヤマダくんの感想に近いかな。ちょっと変態チックだわ。」


「縄文のビーナスの頭が平なのも気になりますね。」


「このビーナスの目の吊り上がりかたは尋常じゃない。これは怒っている妊婦だよ。妊娠中に悪いことをした旦那が、怒る妻へお詫びに王冠みたいな髪飾りをプレゼントしたんだよ。」


「ツタンカーメンの被り物に似ていますね。それでも怒り収まらずって感じですか。」


「縄文のビーナス像は縄文人のシャレで作ったものだよ。現代で言う風刺漫画みたいな感じかな。」


「縄文時代のゴシップ記事的な扱いってことですね。悪さした旦那の顚末を造形化したと考えると、今も昔も人間の考えることや習性は変わっていないということですかね。」


「5000年前だろうが現代人の祖先だよ。こういう土偶はマジメに見ちゃいけない。笑かそうとしている部分も大いにあると思うよ。」


「アートの起源は笑いや癒しから生まれたと言う人もいますものね。ラスコーの洞窟壁画だって、笑いや癒しのために描かれたと考えれば、現代の美術と繋がるものがある。あと、笑いの中には驚きも含まれている。」


「突拍子もない造形感覚を披露し合うことで、日常を豊かに彩ったんだよ。」


「今も昔も、人間のやることはそんなに変わらないんですね。」


「それが人間の営みってもんだよ。5000年後の人間も多分同じようなことしているよ。」


「国宝の縄文のビーナスは、縄文のゴシップビーナスで、仮面の女神はSMクラブCOSMOってとこでしょうか。」


「でも、日夜マジメに研究している人たちがいるから、アーティストからの視点はここまでにしておこうね。」








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