第359話 クワヤマダ、ゴジラ辞めるってよ

平さんはじっとクワヤマダくんの顔を見つめながら、ある重大な発見に至った。子供が最初に描く人の絵――いわゆる「頭足人」。胴体が存在せず、顔に直接手足がつながっているあの奇妙でありながらも純粋なフォルムだ。クワヤマダくん、君はまさにその姿をしている、と彼は心の中で思った。


「胴体がない…だが、手と足がつけば成立するかもしれない」と平さんは冷静に分析しながら、隣にいた巨匠モガミに声をかけた。「モガミ、これ見てみろよ。デタラメアートをやる前に、子供たちの初期の絵を見習うべきじゃないか?」


モガミは静かに頷きながらクワヤマダくんを見つめ、「そうだな。原初的な表現というのは、我々が失って久しい美の根源だ。デタラメではなく、あえて無秩序の中に潜む秩序。それを理解することが本当に重要なんだ」と呟いた。


その瞬間、無気力風寺村の神々が静かに舞い降り、クワヤマダくんに手と足をつける作業を始めた。顔しかない彼に次第に手足が形成されていく光景は、まさに生命の再構築を目の当たりにするようだった。まるで人間の進化の瞬間を覗き込むかのようなその場は、神秘と混沌が入り混じり、観客に哲学的な問いを投げかけていた。


――本当に「完全な存在」とは何か? 胴体は必要なのか? 人はどこから人となるのか?


クワヤマダくんは誇らしげにその瞬間を見つめていた。手が伸び、指ができ、次に足が形成されていく――普通の人間のような形が完成しつつあった。喜びの涙が彼の顔を濡らし、ついに「頭足人」の体を手に入れたと思った瞬間だった。


しかし、その劇的な変化を目の前にしながらも、クボタは鼻をほじりながら無気力な声で呟いた。「ふーん、手足がついたか。だけど、どうなんだ? そんなに重要なことなのか?」その無関心さが、その場の神聖な空気を一瞬にして打ち砕いた。


そして、静寂を切り裂くかのようにクワヤマダくんは一言。「おれ、ゴジラ、辞めるわ…」静かに、しかし確信を持ってその言葉を発したのだ。


周囲は驚愕に包まれた。ゴジラ――あの怪獣を辞めるだと? 誰もが理解に苦しむ中、彼はただ静かに、そして落ち着いた口調で語り続けた。「俺は、もう破壊する側じゃない。これからは再生の時代だ…」


クボタは鼻をほじりながら、「桐島、部活辞めるって」のパロディ?ぼんやり呟いたが、誰も彼の言葉に耳を貸すことはなかった。


次回予告

クワヤマダくんの衝撃の告白、そして怪獣映画界を揺るがす大変革が今、始まる。

人々は混乱し、怪獣ゴジラが去った世界に新たな秩序は生まれるのか?

無気力風寺村神々の次なる計画とは何か?

そして、クボタがついに明かす「メカゴジラ」の真実とは!?

哲学的問いが交錯し、美の再定義が行われるこの奇跡の物語をお楽しみに。

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