第374話 ラブストーリーは突然に
念願の原始時代にタイムワープしたダイラとクワヤマダくん。
目の前に広がるのは、猿のような、人のような、正体不明な猿人たちのカオスな世界。謎の生命体が漂うその空気の中、ダイラは妙に馬が合う一団を見つけた。彼らは後に現代人の祖先となるホモ・サピエンスだった。
「こいつら、なんか俺たちっぽくね?」
ダイラは彼らと意気投合し、未来から来たことも忘れて交わっていた。
ある日、クワヤマダくんがニヤニヤしながら、謎めいた集団を引き連れてきた。
「おい、見てくれ! こいつら、かなりイケてるぞ!」
それは筋骨たくましいネアンデルタール人たちだった。言葉は話さないが、彼らは石や骨に芸術を刻む天才だった。粗野に見えて、目の奥には静かな知性が宿り、まるで古代の彫刻家の魂がそこに生きているようだった。
「お前、よくこんな連中と仲良くなったな。」
ダイラが驚いていると、ホモ・サピエンスの連中は眉をひそめ、ささやき合った。
「野蛮な猿だ。」
「やつらは危険だ、近づくな。」
偏見に満ちた言葉が、異文化の壁をそびえさせる。だが、クワヤマダくんはそんなものは意に介さなかった。彼は自由な心でネアンデルタール人たちと踊り、石を叩き、笑い声を響かせた。
クワヤマダくんの行動は、ホモ・サピエンスの若者たちの胸に小さな火を灯した。そして、その火が燃え広がったとき、ひとりのホモ・サピエンスの若者が、ネアンデルタール人の女性と恋に落ちた。言葉を超えた恋。種族の壁さえも打ち砕く愛。
そして、彼らの間に混血の子どもが誕生する。
クワヤマダくんはその奇跡を眺めながら、ダイラにぼそりと言った。
「これって、現代で言えば、上野動物園のゴリラと結婚するようなもんだよな。」
ダイラはしみじみと語った。
「でもな、お前のその自由さが、未来を変えたんだぜ。」
後に現代の学者たちが、現代人のDNAにネアンデルタール人の遺伝子が数%混ざっていることを発見し、頭を抱えたのだ。
「種が違うのに、どうして混血したのかって。普通は信じられないことだからな。」
クワヤマダくんは誇らしげに笑った。
「つまり、俺が人類のキューピッドってわけだな?」
ダイラはクワヤマダくんの肩を叩き、笑みを浮かべた。
「まったくだ。お前がいなかったら、ホモ・サピエンスとネアンデルタール人は、永遠に敵同士だったかもしれない。」
二人は原始の大地を歩きながら、見上げた空には無数の星が瞬いていた。
「つまり、今の俺たちの中には、あのネアンデルタール人の血が流れてるんだな。」
ダイラがしみじみと呟く。
「多様性ってのは、思ったよりずっと深いもんだな。」クワヤマダくんが石彫りの模様をなぞりながら言った。「自分と違うものを受け入れるって、こういうことなんだな。」
「俺たちが未来からここに来たのも、何かの巡り合わせだろうさ。」
ダイラはそう言うと、ふと笑った。「もしかしたら、現代に戻ったとき、俺たちも自分の中の多様性をもっと楽しめるかもしれないな。」
二人は星空の下、原始の風を感じながら歩き続けた。
「愛って、すげえよな。」クワヤマダくんが言う。「時代も、種族も、文化も超えるんだからさ。」
ダイラは静かに頷いた。
「そうだ。人類の進化だって、愛の産物なのかもしれない。」
夜空の向こう、まだ見ぬ未来の可能性が星々の間で輝いていた。彼らはその星明かりの下で、人類の歴史に刻まれた多様性の美しさと、愛が織りなす未来への希望を噛み締めていた。
そして二人は心の中で確信する――どんな時代に生きても、どんな場所にいても、人間にとって最も大切なものは、変わることのない「愛」だと。
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