第369話 キングのため息

街にはスボイのアート作品が至るところに飾られていた。巨大なビルの壁から公園のベンチに至るまで、彼の作風が一切の妥協を許さず、どこを見ても同じようなデザインで溢れかえっている。タイムマシンから降り立ったダイラ、クワヤマダくん、平さんはその光景を目にして、しばし呆然と立ち尽くしていた。


「見ろ、これが俺の世界だ。」スボイが誇らしげに言った。「人類も動物も植物も、みんな俺のアートを最高だと認めている!」


クワヤマダくんは感心しながら街を見渡す。「すげえな!どの家も学校もスボイだらけじゃん。見ろよ、冷蔵庫のドアまでスボイの作品になってる!」


平さんは冷蔵庫を指さし、「これは冷やせる彫刻か?」と冗談めかして笑った。


しかし、街の至るところで、以前アーティストだった人々が路上に座り込み、スケッチブックを抱えて彷徨っている様子が目に入った。彼らはみなスボイにアート界を支配された結果、筆を折るしかなかった者たちだった。


一人の元アーティストが、ボロボロのスケッチブックを握り締め、嘆くように言った。「もうダメだ…スボイ以外の作品なんて誰も見向きもしない。俺も筆を折ったよ。」


その様子を見たダイラは、静かにスボイに問いかけた。「これが君の望んだ世界なのか、スボイ?」


スボイは一瞬、答えに詰まりながらも、悠然と肩をすくめた。「当然だろ。俺のアートがすべてを超越したんだ。」


しかし、ダイラはさらに問いを続けた。「本当にそれでいいのか?アートって、人の心と共にあるべきだと思うんだ。君は薬で強制的に人々を変えたけど、それは本当に価値があるのか?」


スボイは一瞬考え込み、黙り込んだ。


「心から評価されてこそ、アートじゃないのか?」ダイラは続けた。「ただ認めさせるだけなら、それは本当の芸術じゃない。」


クワヤマダくんも、ティラノの胴体をポンと叩きながら笑った。「そうだよな。俺もこの胴体、ティラノが『どうでもいい』って言ってくれたおかげで、逆に意味を感じたんだ。心があるからこそ、この胴体は俺にとって特別なものなんだよ。」


ダイラはうなずき、スボイを見つめた。「アートはどうなんだ?人がいてこそアートが生まれるのか、それともアートがあるから人が存在するのか?」


その問いに、スボイはゆっくりと口を開いた。「…たしかに。俺のアートを好きだって言ってる人々、それは本当の愛じゃないかもしれないな。」


スボイは深く考え込み、そして拳を握りしめた。「薬を使ったのは間違いだった。でも、もう一度やり直すよ。今度は正々堂々と勝負して、俺のアートが心から愛されるようにするんだ。」


その決意を聞いたダイラは微笑み、クワヤマダくんと平さんも頷いた。


「よし!」スボイは未来の薬を封印し、新たな道を歩むことを決意した。「今度はちょうどいい具合に、俺のアートが自然に評価される薬を開発する!」


そうして、スボイは再び薬を作り直し、今度は少しだけ自分のアートを嫌いにさせる薬を散布することを決めた。


スボイは胸を張って言った。「これで完璧だ。今度は俺の作品が自然に評価され、ちょうどいいバランスで好き嫌いが分かれるようになる!」


しかし、その結果は惨事となった。


街中の人々がスボイの作品を見て顔をしかめ、ため息をつきながら遠ざかっていった。ある家では、スボイの絵がゴミ箱に捨てられていた。


住民Aは憤りをあらわにした。「もう無理だ、スボイの作品なんて二度と見たくない!」


住民Bも同調した。「まったく、なんでこんなに気持ち悪くなるんだろう…」


スボイは愕然とし、呆然と立ち尽くした。「まさか…薬の分量を間違えた!?これじゃあ、みんなが俺のアートを嫌いになっちゃう…!」


ダイラは溜息をついた。「だから言ったじゃないか、スボイ。無理に操作しちゃダメなんだって。」


クワヤマダくんは苦笑いしながら肩をすくめた。「次はもっと慎重にしようぜ。」


平さんも励ましの声をかけた。「まあ、失敗は成功の母って言うし、次はきっとうまくいくさ。」


スボイは深呼吸し、気を取り直した。「そうだな。次こそ、正々堂々と俺のアートが評価されるようにする!」


そうして彼らは再びタイムマシンに乗り込み、過去へと戻る旅に出た。スボイの挑戦はまだ終わっていなかった。


クワヤマダくんはティラノの胴体をポンと叩きながら、冗談っぽく言った。「よし、俺もこの胴体で新しい挑戦をしてみるか!」


平さんは笑いながら、「それもアートの一種かもしれないな!」と答えた。


彼らの笑い声とともに、タイムマシンはブオーンと音を立てて時を越える冒険へと旅立っていった。

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