第345話 テセウスの船
ダイラはクワヤマダくんの青く塗られた胴体を眺めながら、少し考え込んでいた。
ダイラ:「クワヤマダくん、君の胴体が青く塗られた今…君はまだ君なんだろうか?」
クワヤマダくんは頭だけで困惑した顔をして答える。
クワヤマダくん:「何言ってんだよ!青くなったって俺は俺だろ!胴体の色なんかで俺が変わるわけないだろ?」
ダイラ:「いや、待ってくれ。これは哲学的な問題なんだ。君は今、青く塗られた胴体を持っているけど、それは元の君の胴体とは言えるのか?これって『テセウスの船』の話に似てるよ。」
クワヤマダくん:「テセウスの船…?ああ、なんだっけ、それ。あの、船の板を全部取り替えても同じ船かどうかって話か?」
ダイラ:「そう、その話だよ。例えば君の胴体がどんどん変わって、青く塗られたり、別のパーツに置き換えられたりしていくとする。最終的に全てが元のパーツじゃなくなったとき、君はまだ君なんだろうか?」
クワヤマダくんは少し黙り込んだが、すぐに顔をしかめて言った。
クワヤマダくん:「待てよ、ダイラ先輩。それって俺が、俺じゃなくなるってことか?胴体が青くなろうが、別次元に飛ばされようが、俺の意識が俺なら俺は俺だろ?」
ダイラ:「うん、そうも言えるけどね。けど、物理的に見たとき、君の胴体が別の存在になりつつあるということは、君自身も変わっていくんじゃないかと考えられるわけだ。」
クワヤマダくんは頭だけであちこちをキョロキョロしながら、焦りを見せる。
クワヤマダくん:「じゃあ、俺が青くなった胴体を持ち続けたら、俺は別の存在に変わっちまうってことか?それ、すっごい気持ち悪いんだけど!」
ダイラは微笑みながらも真剣な表情で続ける。
ダイラ:「それに加えて、君の胴体がイヴ・クラインの手によって、今や彼の作品の一部として存在している。つまり、君は単なる人間ではなく、アートとしての"クワヤマダくん"でもあるわけだ。」
クワヤマダくん:「俺がアート!? 冗談じゃねえ!そんなの嫌だよ!」
ダイラ:「でも、ここで考えてほしいんだ。もし君が"アート"として存在し続けたとして、それでも君は君であり続けられるのか?そして、もし元の胴体に戻ったとしても、既にクラインの作品の一部として刻まれた君は、以前と同じ君なんだろうか?」
クワヤマダくんは頭を抱えるように言った。
クワヤマダくん:「ああ…もう訳わかんねえ!俺の胴体はただの胴体だと思ってたのに、なんでこんなに哲学的な話になっちまうんだよ!」
ダイラ:「それがタイムトラベルの面白いところなんだよ。物理的な存在が変化すると、存在の意味そのものも揺らぐ。君はただの"クワヤマダくん"なのか、それとも"青く塗られたクワヤマダくん"という別の存在なのか…。その違いは重要なんだよ。」
クワヤマダくんは深いため息をつき、少し落ち着いた様子で言った。
クワヤマダくん:「つまり、俺がどう変わろうが、それを受け入れるしかねぇってことか?」
ダイラは笑顔で頷いた。
ダイラ:「そうだね。君がどう変わろうが、それは君だよ。テセウスの船のように、どれだけ変わっても、その船がテセウスの船であり続けるようにね。」
クワヤマダくん:「だったら、俺は俺のままってことでいいか。でも、早く胴体戻してくれよ!俺、哲学はもういいからさ!」
ダイラ:「わかったよ、クワヤマダくん。胴体を取り戻すために、まずは時空の歪みを直そう。平さんのクーラーから出る毒ガスの影響で、クラインのスタジオが時空的に不安定になってるはずだ。それを解決すれば、君の胴体も元に戻るかもしれない。」
クワヤマダくんは青い胴体のことを思い出し、微妙な顔をして言った。
クワヤマダくん:「いや、できれば青いペイントは消してくれよ。俺、アートになる気はないから。」
ダイラは微笑みながら、彼の願いを聞き入れた。
【次回予告】
テセウスの船のパラドックスに直面したクワヤマダくんとダイラ。青く塗られた胴体を取り戻す冒険の行方は? そして、平さんのクーラーによる時空の歪みは果たして修正されるのか? 次回、『芸術と存在の狭間で』をお楽しみに!
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