第107話 TAROMAN×駄々っ子
「TAROさん、やっぱりTAROMANは創造のヒーローなのですか?」
「ダイラくん、あれをヒーローと呼んではダメだよ。創造のシュルレアリストと呼ぼう。」
「奇獣駄々っ子はダダイズムのメタファーですよね。」
「ダダイズムは、既成概念や常識に対して、駄々をこねて否定するのが大方のスタンスだよ。破壊の芸術とも言えるかな。」
「要するに、破壊と創造、似た者同士の戦いであることが、TAROMAN第四話のスジですか?」
「ダダイズムから分裂したシュルレアリズムとしては、壊してばかりで駄々をこねている奴らとは一緒にしてほしくないんだ。」
「シュルレアリズムはオートマティズム(※1)やデペイズマン(※2)という、その辺の中学生でも何となくアートに仕立てるテクニックを発明したプライドがありますもんね。」
「そうなんだよ、ダダイズムの連中は基本的にニヒリズムだろ、デュシャンなんか、男性用小便器にサインして展覧会に出しちゃうんだから。」
「現代アートの分岐点になるくらい、強烈な作品となりましたけどね。」
「でも、その辺の小学生のイタズラに近いものがあるだろ。糞尿を弄ぶんだから。」
「シュルレアリズムの連中は、ダリやマグリットのように、作品の質にこだわる傾向があるんだよ。お高く止まる人たちだ。でたらめなようで、めっちゃ丁寧な気質があるんだよ。」
「TAROMANが同じことを繰り返して死んでしまいそうになるシーンがありましたけど、駄々っ子みたいにでたらめ行動や爆破をパターン化させている自己に絶望していたってことですか?」
「創造しているつもりが、同じことを繰り返しているだけじゃん!雑なダダイズムと変わらねーじゃん!と気付いちゃった。」
「だから、シュルレアリスム星のTAROMAN2号が助けに来た時に、ほぼ分身である自己を否定して、駄々っ子と共に丁寧に爆発させたのですね。」
「サカナクションの山口一郎くんも、大ヒット曲、新宝島では、揺れたり震えてたりしたって丁寧に描くと歌っている。デタラメなようで丁寧なのが、シュルレアリストの定めなのさ。」
「仮の自己を爆発させることで、パターンからの脱却を図り、新しい最後を丁寧に創造したのですね。高津博士も、自己模倣が最も許せなかったと解説していた。」
「事故的に自己を爆発させれば、最も新しい表現となりそうですが、それでは、TAROMANが終わってしまう。脚本家もマッドな発想をしまたもんだ。」
「第四話は、2号を爆発させることで新しい終わり方を創造したけど、次回はどうするのかなぁ。TAROMANを作っている方々も苦しんでいるように見えますが・・。」
「マッドな5分間と謳っているけど、いくら深夜放送と言えども、コンプライアンスは無視できないからね。やれることには限界がありそうだ。」
「TAROMANの行動もシュルレアリスムから脱却する必要がありますか?」
「シュールという言葉は一般的になり過ぎているからね。非現実的なことを意識するということは、現実を知っているという常識がないと成立しない。」
「YouTubeの過激動画を観過ぎている人々からすると、TAROMANの行動は割と普通に見えている可能性がある。もっとマッドに過激に!という視聴者の期待感を埋めることが今後できるのでしょうか。」
「ダイラくん!ちょっと待って、NHKのEテレだから、あれ以上のことをしたら、本当にNHKがぶっ壊れちゃうよ・・。」
「奇獣タチバーナが出てくるとか!?」
「うひょ!中庸で楽しむ5分間ってところに収まれば、期待値も下がると思うけど。」
「それはナイスアイデア!中庸か否かで判断すれば、見方や楽しみ方が変わりますね。」
「美ってものは見方次第だ!」
「それは、第六話でやるらしいですよ、今から楽しみです!」
※1オートマティズム・・自動記述、自動現象と訳される。 そもそもは生理学・心理学用語であり、意識の介在なしに動作を行なってしまう現象を示す。 1920年代ヨーロッパのシュルレアリストたちはこの現象を表現に応用し、理性によるコントロールを取り除いて意識下のイメージを記述することを目指した。
※2デペイズマン・・人を異なった生活環境に置くこと、転じて「居心地の悪さ、違和感;生活環境の変化、気分転換」を意味するフランス語。 美術用語としては、あるものを本来あるコンテクストから別の場所へ移し、異和を生じさせるシュルレアリスムの方法概念を指す。
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