第18話 ダイ学紛争(モガ&カトウ談話)

「モガさん、今年の4年生の卒業論文の課題はどうします?」


「あいつらには、書けんだろう。それに、書けといったところでするじゃろ。カトウさん、1968年の紛争のこと知ってますか。」


1968年、美大でも学園紛争が起きた。


大きく分けて2回、学生によるバリケード封鎖があった。


1回目は、芸術祭での制作・展示・運営についてカリキュラムから外しでほしい、開催日程を3日間から4日間に延期し、準備期間を設けてほしいと言う要求から始まった。


当時の芸術祭は「創立記念祭」として大学運営で行われていたため、学生の自由な表現が保障されておらず、大学側の「記念祭なんだからしろ」という無言の圧力がかかっていた。そのため、カリキュラムの一環としてのが出ていた。


学生たちは、自治による・展示・運営を求めていた。


同時期、全世界で連続発作的に起きた若者によるが、学園紛争という形で広まっていた。


戦前は、美術大学は日本国民の教養や文化レベルを向上するための、エリート教育であった。しかし、戦後、一般教養として美術やデザインを学び、生活を豊かにしたいというニーズが増えていた。つまり、社会が豊かになっているあかしであり、自然な道筋だった。


にもかかわらず、美大は旧態依然、教育の名残があるカリキュラムや、教授陣の高圧的な態度、官僚的な学校運営に学生とのひずみが生まれていた。


戦後豊かになった若者は、で遊んで育った。


の一つだった。


俺たちに自由と開放感をくれ、それが大学の役割だろ。


カチコチに固まった大学は揺すると壊れやすく、自由を謳歌したい若者たちは、硬直した組織と知ったうえで受験し、入学すると


について、改革を求めることは、美大生は得意分野だった。


しかし、2回目の学園紛争ではそうもいかなかった。


のヘルメットを被った芸術祭実行委員は、白ヘル(中核)、赤ヘル(共産主義・ブント)、青ヘル(反帝学評系)たちとは、空気感が違っていた。


ピンクヘルメットは、芸術祭以外、特にキョーミねえからと、大学側との交渉の末、3日から3日間半(実質4日間)、芸術祭を単位に認定しない権利をが確保できたことで、熱は冷めていた。


熱が冷めない少数派の青ヘルは、教授会にの撤廃、学生自治の自由化、学生会館の設立、学費を掲げ、バリケード封鎖をした。


事務的でアートの欠片かけらもない青ヘルさんには、、ということで、美大生の多くはサッサと離れアトリエにこもった。


学費値上げ反対は完全にであり、親のすねを食い尽くす気満々の学生の心には何も響かなかった。


美大生の多くはに飽きたが、2回目の封鎖はを強く促す大きなとなった。


青ヘルの功績は大きく、いつの時代も


「あの美大の大学紛争は、世間的には話題にはならなかったけど、美大の風土を変えたと思うよ。大きな転機だった。?を突き付けられたからね。」


「今の学生たちは、教授は何にも教えてくれないと文句を垂れるけど、教えたら教えたで、高圧的で自由を奪う最悪な教授だって、また騒ぐんだからさ。」


「そう言えば、この学年で自己紹介やったときに、黒板のカトウさんの名前をと消して、自分の名前を書いた元気のいい学生もおったね。今はブラジル空手にのめり込んで、ブラジルに留学しているみたいだけど。」


「危険だな~。卒業論文は撤廃だ!宿題の無い自由な夏休みをプレゼントしてやろう。カトウさん!」


「賛成!美大は、エリートを育ててるわけじゃなくて、美的教養のある、をしているって、学長も言っているしなぁ。流行りの新興宗教で踊っている、高学歴エリートたちのセンスのない服装やデザインを見れば、美大で総合的なセンスを磨くことは、社会でよりよく生きるために意味のあることだと思うよ。」


「この自由の中から、たまにが出てくることもある。」


「10年に一人くらいかな。さんだって、この大学にいたから、あんなの作品つくるようになったんだと思うよ。国立の藝大だったら、人体に無数の穴を開けて、発光させていたかもね。ガハハ・・。」


「誰も思いつかないことって、な世界から、と生まれる。連鎖反応で、その周辺の連中も面白くなるんだよね。ダイラさんがいた学生時代の6年間と講師の3年間、一緒にいた学生たちはラッキーだった思うよ。彼の影響で、無意識の中のを外せたんだから。」


「100M9秒で走る奴が出てきた途端に、9秒台続出みたいな状況だな。」


「あと、20年後、ここの卒業生たちはどうなっているのかなぁ。彫刻に関係なく、人生を超克チョウコクしていそうで、楽しみだね。責任はもたないけど・・。モガさん。それまで、俺たちは元気に作品つくっていようね。」

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