第438話 おれのバオバブはどこ?

台北の夜は、湿気を含んだ熱気とネオンの光で満ちていた。ダイラとクワヤマダくんは芸術祭「落山風藝術季」の準備に追われ、作品が到着するのを会場の裏手で待っていた。


大型トラックがギィギィと音を立てて到着し、二人の前に巨大な木箱が降ろされた。ダイラは期待に満ちた顔で木箱を開けると、そこには驚くべき光景が!


ダイラ:

「なんだこれは…!おいクワヤマダ、これ、お前じゃないか!」


木箱の中には、タンクトップを着たクワヤマダくんがラーメンを食べる彫刻が鎮座していた。筋肉の彫刻が妙にリアルで、まるで「主役は俺だ!」と叫んでいるようだった。


クワヤマダくん:

「…おお!これはいい!俺の筋肉美とラーメン愛が世界に知られる瞬間だな!」


ダイラは頭を抱えながら呟いた。


ダイラ:

「いや、これ事前に箱に入れた作品と全然違うんだが…。何でこんな奇妙な“クワヤマダくん像”になってるんだよ!」


クワヤマダくん:

「まあまあ、細かいことは気にすんな。アートってのは現場で生まれるものだろ?なぁ青島!」


ダイラ:「青島じゃねーし。」


結局そのまま彫刻を展示することになり、台北市民が続々と会場に集まる中、異変が起きた。パンフレットに掲載されたバオバブプランテーションの作品を期待していた観客たちは、目の前に立ちはだかる筋肉ムキムキのクワヤマダ像に戸惑いを隠せなかったのだ。


その空気を察したクワヤマダくんが、急にステージに飛び出した。


クワヤマダくん:

「きさまら、これがアートじゃ!期待を裏切ってこそアートじゃ!」


観客たちは日本語が理解できずポカンとしていたが、クワヤマダくんはお構いなしにチェーンを振り回し始めた。


ダイラ:

「おいおい、チェーンなんてどこから持ち出したんだ!」


搬入で使われていたチェーンが宙を切る音とともに、観客の間にざわめきが広がった。そして次の瞬間、台湾の観客たちが拍手喝采を送り始めたのだ。


観客A:

「これぞアートだ!期待を裏切るパフォーマンスなんて最高じゃないか!あのラーメンはモヤシの量からして二郎系か?」


その反応に調子に乗ったクワヤマダくんは、さらに勢いづいてダイラの首にチェーンを巻きつけた。


クワヤマダくん:

「ダイラ!これもアートの一部だ!」


ダイラ:

「やめろ!お前、それ以上やったら完全にやりすぎだ!」


しかし、止まらないクワヤマダくん。最終的にダイラの額に突き刺さるフォークを観客が目撃し、緑色の血が吹き出した瞬間、悲鳴とスマートフォンのカメラ音が一斉に響き渡った。


SNSはその様子を一斉に拡散。「♯台北の芸術祭に現れた謎の日本人ペア」がトレンド入りし、祭りの話題をすべてさらった。


ホテルに戻ったダイラとクワヤマダくん。


ダイラ:

「お前、チェーン振り回して首絞めたの、世界中に拡散されてるぞ!しかも、緑色の血画像に10万いいねだ。NASAも注目?ってえぐ!」


クワヤマダくん:

「いいじゃねぇか。世界中が俺の筋肉とラーメン愛に酔いしれるんだからな!」


ダイラ:

「次回の芸術祭、どこも呼んでくれないぞ…。もう、タイムトラベラーだってバレる寸前だったし。おれ、薄っすら消えかかってたからね。」


クワヤマダくん:

「でも、あの観客の拍手、忘れられねぇだろ?」


ダイラはため息をつきながらも、どこか達観した表情で頷いた。


ダイラ:

「あっ!そう言えば、おれのバオバブプランテーションはどこへ行ったのだろう?」


二人の問答は台北の夜に響き渡り、街の屋台に吸収されていった。

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