第362話 ムロ町ック天国!!
モガミがタイムマシンで消え去った後、ダイラは耳を澄ませた。スタジオの騒がしい空気が、まるで異次元と現実が交差するように感じられた。クワヤマダくんは一切動じず、完璧な座禅姿勢を保っている。そのすぐ横で、平さんはキングギドラの着ぐるみを着たまま、なぜか必死に怪獣ごっこを続けていた。スボイと寺村は、熟睡して起きる気配もなく、クボタだけが突然「やばい、水道工事のバイト!」と叫んで、嵐のようにスタジオを飛び出していった。
その数分後、静寂が訪れるかと思いきや、羊羹がコンビニから差し入れとして届いた。「羊羹?今の時代に?」ニューヨーカーたちは騒ぎ始めた。「ジャパンパワーフードだ!600年前からのパワーが詰まってるぞ!」という噂が瞬く間に広まり、まるで謎のエナジードリンクがもたらされたかのように、全員が期待の目で羊羹を見つめた。
「羊羹ってさ…室町時代から続いてんだよな」と、ダイラがその小さな四角を手に取りながら言うと、周囲の騒音が一気に静まった。あたかも、600年の時空を超えた歴史の重みが彼の言葉に宿っているかのように。
「600年前の人々も、同じようにこれを口にして喜んでたんだろうなぁ」と平さんがキングギドラの頭を掻きながら続けた。「文化ってのは、結局『喜び』が根っこにあるんだよな。喜びが続いて、気づけば何百年も残ってる。羊羹もそうさ。」
クワヤマダくんが、坐禅のまま静かに口を開いた。「それが未来を創るってことなんだよ。今、スティーブ・ジョブズのアイデアだって、数百年後には羊羹みたいに、新たな伝統になってるかもしれない。」
その言葉にダイラは深く頷いた。アートや技術、そして羊羹のような伝統的な食べ物は、共通して「喜び」を与える力を持っている。そしてその喜びが、人類の未来に続いていく。
「もしかしたら…」平さんが再び怪獣モードから抜け出し、考え込むように言った。「俺のキングギドラごっこだって、数百年後には伝説の『遊び』として継承されてるかもしれんぞ。『大平流怪獣道』とか、文化財になってるかもな!」
全員がその突拍子もない発想に笑い出す中、ふとダイラが真剣な表情でスタジオを見渡した。「だからさ、アートってのは、結局『喜び』を与えること。それが未来へと繋がるんだ。」
ニューヨーカーたちが羊羹をもぐもぐと食べながら、その不思議な共感の波が広がっていく。彼らの作品が、未来にどう受け取られるかは誰にも分からない。でも、今この瞬間の「喜び」が次の世代に繋がることだけは確かなのだ。
そして、羊羹の甘みが口の中に溶けていくように、この「ダイラ物語」もまた、時空を超えていつの日か誰かの心に響き続けるのだろう…。
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