第188話 言ってはいけない①
「美大に入る奴って、クラスで2,3番目に絵がうまかったタイプだよね。」
「僕は漫画やアニメの模写が断トツにうまい奴をよそ目に必死で真似るんだけど、どうしても勝てませんでした。」
「模写で勝てないことが明確になると、ヘタウマか想像画、抽象形態に走る。」
「コロコロやジャンプでもあまり絵のうまさが際立たない漫画を模写して対抗していました。漫☆画太郎の珍遊記が丁度いいかと思い模写した頃もありましたが、実は漫☆画太郎の絵はデッサンがうまく、クラスでドラゴンボールや北斗の拳を模写していた奴にその座をあっさり奪われました。」
「絵や美術が好きでプライドが高いのに、漫画・アニメ模写で美術の才能の有無が決まってしまうかのような幼少時代を過ごしむざむざと負けたタイプが美大を目指す傾向にあるな。」
「美術の時間もヒーローにはなっていない。やっぱり模写がうまい奴がクラスの画壇のトップに君臨するから、珍味重視のアンリ―ルソータイプは影を潜め妬みだけが蓄積される。」
「僕は、キン肉マン消しゴムを解体して、色んな超人とミックスさせていました。」
「それはキン消しを大量に買えるだけの財力がない家庭の子どもが、編み出す技だね。ピカソ技法だわ。分解して再構成するとレベルが上がった気になる。」
「そうなんです。模写でも勝てないしキン消し集めでも勝てないとなると、新しいキャラを生み出す方向に行きました。意外性と話題性は確保できました。」
「そういう奴は漫画本も買い集められないから、自分で漫画を描き始める。」
「自分で面白い漫画を描くから買わない派なんだと粋がっていました。週刊誌の新キャラクターの募集があれば絶対に出していましたよ。」
「単行本は買えないけど、新キャラクターが採用されたと自慢することで、最先端を走っている風を装う技だね。」
「そして、美の基準が狭い幼少時代に経験したトラウマを抱えて、美大予備校に入ると更なる地獄が待ち構えている。美の基準が広がると夢を抱いた美大に入るためには、デッサンという狭い美の基準をクリアしなければならない。」
「ねじれていますよね。偏差値教育から離れたはずなのに、美の偏差値を求められているようで、苦しい日々でした。無理矢理その基準にはまり努力して美大に入ってからも更なる地獄がありました。」
「予備校で学んだことを捨てなさいと教授からバシバシ言われる日々。」
「柔らかい頭にデッサンという固定的な思考回路を植え付けられたのにそれを捨てるのは、覚えたばかりの日本語を忘れなさいというくらい過酷なことです。」
「予備校の洗脳を消すのに30年かかったという作家さんの話を聞いたことがあるよ。そのくらい、若者の脳は洗脳をダイレクトに受けやすい。」
「美大にはそんな予備校の洗脳が解除できないままスポイルされた若者が大量に生まれた。」
「それはあなたの才能の責任と言われても仕方がないけど・・・。美大産業に食い殺されている感が否めない。」
「そういう意味でも、現在作家として生き残っている人々は本物だと思うんだ。」
「この国の美の教育プログラムの中を生き抜いた猛獣ですね。」
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