第430話 引き寄せない法則
虹色の特急列車が異次元のガラスドームに滑り込んだ「世界無神経学会」。ダイラとクワヤマダくんは、今度は「引き寄せない法則」についてのプレゼンを目の当たりにしていた。
壇上の研究者は自信満々に語る。
スピーカーの発表
「皆さん、少しでもやる気を見せたり、ポジティブな発言をすると、人はあなたに期待し、様々なチャンスを与えます。しかし、失敗した時のリターンは最悪になるのです。これは“引き寄せの罠”とも言える現象です。逆に、自らの波長=ヒモの振動数を低く抑えることで、人間関係や責任を回避することが可能なのです!」
スライドには「類は友を呼ぶ」と書かれ、脇に小さな字で「でも呼びたくない場合の対処法」と注釈が添えられている。
ダイラの疑問
ダイラが耳を傾けながら小声でクワヤマダに話しかける。
ダイラ:
「おいクワヤマダ、これさ、ただ“やる気を見せない言い訳”だろ?自分がダメだったのを環境のせいにしてるだけじゃないのか?」
クワヤマダは笑いながら肩をすくめる。
クワヤマダ:
「いやいや、それが“無神経学会”の醍醐味だろ。理論が雑でも、とりあえず面白ければOKなんだよ。」
壇上ではさらに驚くべき仮説が展開される。
孤独を引き寄せる「逆引き寄せの法則」
スピーカーが得意げに説明を続ける。
「さらに、人間には“引き寄せない力”が存在します。孤独に自由に生きたいと願うことで、なぜか同じく孤独を愛する人々が集まってくるのです。この逆説的な現象は、宇宙物理学におけるブラックホールの周辺現象に似ています。」
スライドにはブラックホールの図解とともに、「孤独者同士が交わらないようでいて、微妙に引力で引き寄せられる」という説明が表示される。
ダイラ:
「おいおい、“孤独者が集まる”って、それもう孤独じゃないだろ!」
クワヤマダ:
「でもさ、そういうヤツらは集まっても結局お互い干渉しないだろ?だから成立するんじゃないか。」
壇上ではさらに興味深い結論が語られる。
ヒモの振動をコントロールせよ
「結論として、人間は自分のヒモの振動を調整することで、引き寄せたい人々も、引き寄せたくない人々も選別できるのです。ただし、その調整がうまくいかないと、期待外れの人々が集まる“人間のガチャ失敗現象”が発生します。」
スライドには大きく「ガチャ失敗」と書かれ、その下に小さく「人生は確率操作である」と記されていた。
二人の帰り道
会場を出た二人は再び虹色のジャングルジムに腰を下ろした。星空にはエメラルドグリーンの銀河が輝いている。
ダイラ:
「でもよ、これ結局は“なんとなく生きるのが一番”ってことだよな?」
クワヤマダ:
「そうだな。逆に必死になりすぎると周りも疲れるし、自分も損するってことか。」
ダイラ:
「でも俺、引き寄せないどころか、最近ズボラな人間ばっか寄ってくるぞ?」
クワヤマダ:
「そりゃお前がズボラな振動数を出してるからだろ!でも安心しろ、俺もその類だ。」
二人は笑いながらジャングルジムを登り、ブラックホールのように輝く満月を見上げた。
その瞬間、二人の周りには、何も気にしない風の人々がふわっと集まってきていた。彼らは干渉せず、ただ穏やかに一緒に時間を過ごしていた。
「無神経さ」とは、実は人類が持つ最大の自由かもしれない──そんな思いを抱きながら、ダイラとクワヤマダくんは再び銀河鉄道に乗り込んだのだった。
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