第193話 琵琶湖とメガネと君
「やっぱり琵琶湖と言えば、モーモー・ルル・ギャバンだよね。」
「何それ。ウゴウゴ・ルーガ―の親戚?」
「鏡に映る寝ぼけ眼 鼻毛が七本 まとめて抜いて涙拭いて 琵琶湖に飛び込む♪あのフレーズは耳に残るわ。琵琶湖をテーマに歌っているバンドだよ。」
「知らないわ。」
「近江八幡エリアから琵琶湖に行こうとしたら、スタッフの方に1日で彦根エリアも見るなら琵琶湖へ行くのは厳しいと言われたんだ。」
「琵琶湖は諦めた?」
「琵琶湖は大きいな悲しいくらい♪というフレーズがモーモー・ルル・ギャバン『琵琶湖とメガネと君』歌の中にあるんだけど、滋賀県にいればどこからでも琵琶湖が見えると思い込んでいたんだ。」
「琵琶湖は日本最大の古代湖と言っても滋賀県の面積の6分の1だから・・。そりゃ見えない場所もあるよ。」
「旧八幡郵便局内に彦根エリアまでワープできる作品があった。」
「また妙なこと言い始めた。アタマ大丈夫?」
「本当だよ。アスク・ザ・オラクル(驚異的な能力を持つ建造物)という作品なんだけど、直方体の側面に沿ってレインボーカラーのヒラヒラがついているんだ。そよ風になびいてさらさらとヒラヒラが動いていた。その中央に顔が入るくらいの半円のスペースがあって、その中に顔を入れて下を見ると未来の自分が鏡に映っていた。その瞬間彦根エリアまでテレポーテーションできるんだ。」
「あぁ。鏡に映る寝ぼけ眼 鼻毛が七本 まとめて抜いて涙拭いて 琵琶湖に飛び込んだ♪気持ちは琵琶尾を泳いでいたのね。琵琶湖が見られなかったのが余程ショックだった?」
「寺本邸の庭には古代魚がたくさん泳いでいた。その古代魚と一緒に彦根まで泳いだ。」
「あぁ。浅野のぶはるさんのトリックスターのこと?三本足の黒い生き物が日本庭園に無数に生息していたのよね。ドミノ倒し的に次から次へと謎の生き物が目の前に現れる様は圧巻だったわ。」
「寺本邸の土蔵にはVanishing Bias(消失するバイアス)という暗闇の中に不思議な井戸があったんだ。その隣の部屋にも暗闇の中で正方形の4辺の蛍光灯が高速で点滅するロバート・ハイスさんの作品が・・。平衡感覚を失ったまま井戸を覗き込んだ後、蛍光灯の点滅を見たら完全にトリップしたよ。」
「近江八幡の古風で歴史的な建造物の中にあなたの精神を攪乱させる作品がたくさんあったのね。」
「極めつけは、旧扇吉もろみ倉の中にあの世があった。」
「水面に浮かぶ彼岸花群はまさに天国?」
「幻象の庭だったね。時間軸が狂ったよ。あんな世界が待っているなら死後の世界も怖くないかな。」
「で、電車で彦根駅、鳥居本駅舎まで行ったんでしょ。そこから有川家住宅別宅コース?」
「鳥居本駅は無人駅だけど、駅内には妖精がいた。」
「三木サチコさんの作品ね。あの妖精は人類のDNAの集合体を表しているらしいよ。駅に集まる人間のDNAの集合体があんな愛くるしい形になるなんて、人間って憎めない存在なのね。」
「駅から駆け足で有川家住宅別宅に行ったんだ。そしたら中からグルグル眼鏡の団体がぶわぁと出てきた。僕は何事かと思い、驚いて中に入るとその理由が分かった。」
「また妙な話?」
「中にはグルグル眼鏡で作った龍やシカのようなものがいた。シカらしきものを見ていると消えたり現れたり。あれは神だね。」
「あぁ。ぶわぁと出てきたグルグル眼鏡の団体とは無関係よね。あれは西島雄志さんの作品だよ。銅線をネジネジ巻いたものを大量に作って生命の気配を形にしたらしいわよ。」
「あれはグルグル眼鏡じゃなくて、ネジネジに巻いた銅線なのね。やっていることが神の領域だわ。一つ一つのネジネジを見ていると自分もそのネジネジの一部になってしまいそうだ。」
「部分的なネジネジの集合体が生き物のように見えるなんて。きっと人間しか味わえない特殊な感覚なのよね。」
「地震が来たらあの生き物はどんな動きをするのか・・。グラグラ動いている瞬間にあの生き物の本質が見える気がしたよ。」
「そして有川家住宅別宅の柱を揺すってみたとか?」
「有川家に向かう途中に崩れかかった旧家があったんだ。揺すって同じように家が崩壊したらヤバいのでそれはやりませんでした。」
「有川家が崩れることは無いと思うけどね。ネジネジの銅線を吊るしてある無数のピアノ線を一斉に切ったときの生き物が崩壊する一瞬が観たいと思うのは私だけ?」
「生と死の狭間で揺れ動く生命体のように見えてくるんだけど、崩壊後に再構成された永久の生命を獲得した近未来を予言している作品にも見えてくるから不思議だ。」
「照明が特殊で動きながら点いたり消えたりしたでしょ。あれは市川平さんの仕業なのよ。」
「まちや倶楽部のクーリングタワーズだけじゃないの?」
「他にもあらゆるところで特殊照明作家として絡んでいるのよ。あなた、ご気楽にトリップしている場合じゃないわよ。もう一度琵琶湖を泳いできた方がいいんじゃないかしら?」
「ぎょぎょ!」
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