第15話 ダイラの理想宮(コンタクト・ドーム)
ある日、石に
シュヴァルの理想宮は、アート界の主流の外側の生粋芸術、アウトサイダー・アートとして世界中を
混沌とする現代アート界で、作家としてのアイデンティティーを模索していたダイラは、シュヴァルで言う、鉄に躓き、鉄からインスピレーションを得ていたことに思いを馳せていた。
自身の集大成になる作品を残したいという思いが高まっていた時期だった。
モガミ教授が言っていた、アートの先端とは、自分自身が他の何者でもない、かけがいのない存在として生きること、
★
鉄は錆びる、その錆によさや味わい、ノスタルジーを感じていたが、それでは、長い年月に耐えうるものはつくれない。
ダイラの理想宮を永遠に残したい。
「せんぱーい!ナガザワさんが、証明写真を加工してますよ!」
ナガザワさんは、炎天下の中で石彫をしていたため、個展のパンフレットに載せる顔写真をフォトショップでうっすら白くしていた。
「そのくらいはいいんじゃないの、クワヤマダだって、筋肉を強調するためにピチピチのTシャツを着ているだろ。」
その時、ダイラの脳に電撃が走った。
鉄の美しさを永遠に強調したいのであれば、加工すればいいんだ!
ダイラは板金工場で働いていた友人を頼りに、制作中の作品のメッキ加工を依頼した。
★
戦後、急激な経済成長を遂げた日本で、豊かな生活や多種多様な価値観に触れてこれたことは、先人の努力と苦労があったから。
広島に原爆が落とされた瞬間、日本人のDNAに怒りや苦しみを越えた特殊な生命力が宿った。
日本人は戦争を忘れてはいけない。
平和は多くの犠牲の上に成り立っている。
原爆ドームはその象徴となるものであり、ダイラが構想する理想宮に、オマージュとして取り入れることを考えていた。
単品の作品をつくるというよりも、作品を内包するものでありたい。
大切な人や思い、プライドを守るドームとして・・・
原爆で街中に影が焼き付いたという、話を聞いたことがある。
恐怖の光ではなく、心温まる光と影を生み出す装置、ダイラ・ドーム(ダイラの理想宮)を生み出した。
そこには壮大な宇宙、銀河があった。
★
サービス精神旺盛な性格を生かし、どんな場所でも、人力で運べ組み立てられるコンタクトな造形にした。
どんなものでも内包できるドーム型にすること、無数の穴を開けることで、ダイラの求める光と影が演出できる。
サイズは、原爆ドームと同じにした。
コンタクト・ドームツアーが始まった。
もちろん、ドームを組み立てるときは、日本全国どこでもクワヤマダを電話一本で呼び出した。
「せんぱーい!明日は仕事が入っているんですけど~・・」
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