第36話 スーパーホモサピエンス・ダイラ
「あなたはホモサピエンスを実感したことはありますか?」
何十種類もの人類候補が存在していた時代、大柄で頭がよく、生活力のあったネアンデルタール人は滅びた。
気弱で、非力なホモサピエンスは現在に至るまで大繁栄をしている。
「なぜだか分かりますか?」
文化人類学の講義はいつも眠くなるが、猿山先生のこの問いにはダイラは食いついた。
「交尾が好きだったから?非力な分、隠れることに長けてた?」
「あなたにもその能力は備わっているはずです。」
猿山先生はにやけた。
★
ダイラは、文化祭で昇華しきれなかった、戯曲、ドームのないプラネタリウムのイメージを考えていた。
彫刻科の教授たちは、作品に物語性を込めることを妙に嫌う。
ダイラの作品は、物語の延長にある作風だ。
「君は、何でこの作品をつくったの?コンセプトは?」
答えに窮することが多かった。一度、講評会で物語について話したことがあるが、一蹴された経験から、言いにくくなっていた。
「何で、作品に物語性があってはいけないんだ?物語がなければ、ただのモノだろ。」
当時のムサビは、お堅い人体彫刻か、モノ派が主流だった。
人体は量感とムーブメント、モノ派は極力自然体で人の手垢を残さないのがステイタス。
物語が入り込む余地は無かった。
映画、演劇大好きなダイラには、到底飲み込めない理屈だった。
★
にやけた猿山先生は言う、「この世を支配しているものは何ですか?」
「う~ん、何でしょう?宇宙?」
「外れではありませんが、ストーリー(物語)です。社会活動、文化、宗教、経済、あなたが夢中になっているアート、全てが虚構ですよね。」
「え?嘘の世界ってことですか?」
「全て神話から始まりました。ホモサピエンスがこれほど進化した理由の一つにどんな物事でも、物語にして広める才能があったと言われています。」
「物語?」
「虚構、物語をつくれなかったネアンデルタール人は最期は行き詰まりました。」
「ホモサピエンスは、トンデモナイ虚構をつくり上げたことで、この地球のみならず、宇宙にまで、虚構の手を伸ばしています。虚構や物語は、人々の創造力を掻き立て、更に上を行く物語をつくり上げます。」
「人々が飛びつく物語をつくったホモサピエンスが国や時代を作り、人々を支配してきたのですね。」
「この特性はホモサピエンス(人)には必ず備わっているものなのです。」
ダイラは思った、人体彫刻、モノ派は、今は主流だけど、息詰まる物語かもしれないと。
確かに、モノ派の最後は、川から拾った丸石だった。
自然が造形する究極のカタチ。
理解はできるけど、それで終わってしまった。
人体彫刻の量感やムーブメントはいつの時代も人々を魅了するが、広がりとして考えると、頓挫している。
★
ダイラの作品には強烈な物語が存在している。
自分では語ることはあまりないが、ダイラの作品を見た者は、勝手に物語を紡ぎ出す。
ダイラはホモサピエンスの頂点に君臨するための装置を発明していたことに気が付いた。
「ムサビ彫刻科では、別のストーリ(アートの指向性)で生きているホモサピエンスがいるのだから仕方がない、別の世界に行けば、必ずオレの物語を感じ取ってくれるホモサピエンスが現れるはず。
迷いが消えた。スーパーホモサピエンス・ダイラが誕生した。
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