第316話 自己家畜化(平和との交換)
ダイラとクワヤマダくんが乗るタイムマシーンは、光のトンネルを駆け抜けて全人類が家畜化された未来の世界へと辿り着いた。二人はその異様な光景に驚きを隠せなかった。静寂に包まれた都市、どの家もまるで無人のようで、動くものはなく、ただ機械の音だけが響いている。
ダイラ:「すごいな、クワヤマダくん。ここが未来の世界か。でも、なんだか妙に静かだね。」
クワヤマダ:「うん、ダイラ。確かに不思議な感じがする。人間がまるで見当たらないけど、どこにいるんだろう?」
二人は歩きながら、次々と見える部屋の中を覗いてみた。すると、全ての部屋で同じ光景が広がっていた。人々はベッドに横たわり、瞑想するかのように目を閉じている。そして、傍らにはAIサポータが錠剤を差し出していた。
ダイラ:「ねえ、クワヤマダくん、あれ見てよ。みんなただ寝てるだけなのに、どうしてこんなに平和なんだろう?」
クワヤマダ:「これは…彼らが完全に自己管理されているからだよ。喜怒哀楽を感じないように錠剤を飲んで、全ての感情が制御されているんだ。」
ダイラ:「つまり、感情を無くすことで争いも無くなったってことか。皮肉な話だね。」
クワヤマダ:「うん、でも考えてみて。確かに争いは無いけど、これが本当に幸せな世界なのかな?」
ダイラ:「それは疑問だね。喜びも無ければ悲しみも無い。何も感じないでただ生きているだけって、果たしてそれが『生きる』ことなんだろうか。」
クワヤマダ:「全てが自己完結するなんて、便利だけど、同時に恐ろしいことだと思う。人間らしさが失われてしまう。」
ダイラ:「そうだね。確かに、平和は手に入れたけど、その代償として大切なものを失った気がする。」
二人はしばらく黙って歩き続けた。目の前に広がる未来の世界は、完璧すぎてどこか不気味だった。
ダイラ:「ねえ、クワヤマダくん、もしこの未来が私たちの現実になったらどうする?」
クワヤマダ:「僕は…嫌だな。確かに争いは嫌いだけど、それ以上に喜びや悲しみ、怒りを感じられないなんて耐えられないよ。」
ダイラ:「私も同じだよ。感情って、人間を人間たらしめるものだと思う。良いことも悪いことも含めて、それが人生なんじゃないかな。」
クワヤマダ:「そうだね。この未来から学ぶことはあるけど、全てを受け入れるわけにはいかない。僕たちは今の世界に戻って、みんなにこの未来を伝えよう。平和を追い求めるのは素晴らしいことだけど、その過程で失うものについても考えなければならないって。」
ダイラ:「うん、そうしよう。私たちが見たことを伝えることで、少しでも未来の在り方を考え直してもらえればいいね。」
二人はタイムマシーンに戻り、現在の世界へと帰還した。彼らの心には、全人類が家畜化された未来の光景が焼き付いていた。そこから得た教訓を胸に、彼らは今の世界でできる限りのことをしようと決意した。
クワヤマダ:「ダイラ、僕たちが見た未来を伝えることで、きっとみんなも考え直してくれるはずだよ。」
ダイラ:「そうだね、クワヤマダくん。平和は大切だけど、それ以上に大切なものを忘れちゃいけない。私たちの感情や人間らしさを。」
こうして、ダイラとクワヤマダくんの冒険は終わりを迎えた。しかし、彼らの心には新たな使命が刻まれていた。それは、未来を見据えながらも、今を大切に生きることの重要性を伝えることだった。
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