第413話 ガラス張りのオープン人生
(未来のガラス張りオープンアトリエにて)
ダイラ:「ほら、クワヤマダくん、あっちの人々が僕らのガラスの中をじーっと見てるよ。見られる人と見ている人、更にその様子を見る人。未来のアートってさ、鑑賞者が作品の一部になる仕組みなんだね。」
クワヤマダくん:「確かに。でも俺たち、この『人生丸見え』の流行にちょっと早すぎたよな。2065年のオープンアトリエ企画、覚えてる?」
ダイラ:「もちろんさ。最初はアトリエ公開だけだったのに、寝室もキッチンも全部ガラス張りにしちゃって、YouTubeで全世界にライブ配信始めたら、同時接続20万人超えたあの騒ぎ。『クワヤマダの寝相が芸術だ』とか言われてたっけ。」
クワヤマダくん:「芸術ねえ。寝返りを打つたびに『アハ体験』ってコメントされて、こっちは睡眠不足だったよ。」
ダイラ:「それでも僕ら、あの時代の人々に大きなインパクトを与えたよね。人生は全公開しても生きられるって実験をしたんだもの。」
クワヤマダくん:「いや、ダイラ、忘れんなよ。途中で俺たちも怖くなってたじゃん。『地球人が俺たちに依存し始めたらどうする?』って夜中に話したの覚えてるか?」
ダイラ:「覚えてるとも。あの時、僕らの部屋をのぞき見ていた人たちの中から、自分の人生をすべて晒し始める人が出てきたんだよね。」
クワヤマダくん:「『クワヤマダくんのラーメンの食べ方は抽象画だ!』とか、ネットで勝手にコメント評価されたのが始まりだったよな。でも俺はただ寝てただけだぞ。」
ダイラ:「人間って面白いよね。普通の行動を意味づけして芸術に仕立て上げる才能がある。でも猫も同じことしてると思わない?」
クワヤマダくん:「猫?また急にどうしたんだ?」
ダイラ:「ほら、あの『猫から学ぶ人類学展』のこと覚えてる?『猫は究極のアーティスト』ってキャッチフレーズが衝撃だったよ。」
クワヤマダくん:「ああ、あったな。猫が爪を研ぐ行為を“自己表現”とか、“引っかき跡がキャンバス”とか言われてたやつ。正直ちょっと笑ったけど、妙に納得もした。」
ダイラ:「それだけじゃないよ。あの展覧会の解説員が言ってたでしょ?『猫は何も隠さない。でもすべてを見せるわけでもない。その距離感が魅力だ』って。」
クワヤマダくん:「猫のくせに哲学的だな。でも確かに、猫って妙に存在感があるのに、全貌が掴めない感じがするよな。」
ダイラ:「僕らのオープンアトリエも、猫っぽかったんだと思う。日常をそのまま見せてたけど、意識して見せてたわけじゃない。自然体の僕らがアートになってたんだ。」
クワヤマダくん:「いや待て、俺たちは猫じゃないからな。あの時、全室ガラス張りにしたらプライバシーがなくなって、こっちは大変だったんだぞ!途中で慣れてしまった自分も怖くなったが!」
ダイラ:「でもさ、あれって人類の実験だったと思うんだ。猫から学ぶように、何を見せて何を隠すかって、自分で決める必要があるって教えてくれた。猫のトイレは歓声が上がるが、俺らのトイレ公開は悲しみが漂った。」
クワヤマダくん:「確かにな。猫は人間に愛されるけど、媚びてない。その距離感が大事なんだろうな。俺たちもあの頃、全公開する部分と隠す部分をもっと考えるべきだったかも。」
ダイラ:「公開と非公開、その絶妙なバランスが、未来のアートのテーマになるんだと思う。ほら、あの展覧会のキャッチフレーズみたいにさ、『私は何も隠さない。でも、すべてを見せるわけでもない』。」
クワヤマダくん:「俺たちがタイムトラベルする理由も、きっとその辺にあるんだろうな。人生って公開すればするほど、自分が何者かを問われる旅みたいなもんだし。」
ダイラ:「じゃあ、次は23世紀の“未来プライバシー学”を研究しに行こうか。猫から学んだ教訓を、今度は人類全体に伝える旅だ。」
クワヤマダくん:「ああ、俺たちも猫になれるかもしれないな。でもまずは腹ごしらえだ。未来の猫フード、どんな味がするか試してみようぜ!」
二人はガラス越しに観客に手を振りながら、キャットフードを口の中に放り込んだ。猫的な美学を胸に抱きつつ、さらなるチャレンジが始まった。
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