ダイラ物語

第320話 江戸城ビッグタワー

ダイラとヤマガタちゃんは、江戸城ビッグタワーのふもとのカフェでコーヒーを飲みながら、静かに話していた。タワーの巨大な影が街を覆い、不思議な雰囲気を醸し出している。

「ねえ、ヤマガタちゃん、聞いてくれる？」ダイラが口を開いた。

「もちろん、ダイラ。何があったの？」ヤマガタちゃんは心配そうにダイラを見つめた。

「クワヤマダくんが江戸城ビッグタワーに入ってから、もう戻ってこないんだ。」ダイラはため息をついた。「彼はモガミを探しに行ったんだけど...」

「モガミ？それって、数十年前に消えた友人のこと？」ヤマガタちゃんは驚いた様子で訊ねた。

「そうなんだ。」ダイラはうなずいた。「あの頃、モガミは突然姿を消してしまった。それ以来、誰も彼の行方を知らない。だけど、最近になって、江戸城ビッグタワーには夢追い人が集まるって噂を聞いたんだ。」

「夢追い人が集まるって...それってまるで都市伝説みたいね。」ヤマガタちゃんは笑いながら言った。

「確かにそうかもしれないけど、クワヤマダくんはその噂を信じて、モガミを探しに行ったんだ。」ダイラは真剣な表情で続けた。「そして、彼もまた帰ってこない。」

「それは心配ね。」ヤマガタちゃんは考え込んだ。「でも、なぜ江戸城ビッグタワーがそんな噂の中心にあるのかしら？」

「それが分からないんだ。」ダイラは首を振った。「ただ、ここには多国籍の人々が集まり、特殊な経済圏が生まれている。そして、夢追い人が、新たな生活を求めてこの場所に来る。タワーに入った人々は別人のように変わり、新しい生活を始めるんだ。」

ヤマガタちゃんは興味深そうに目を輝かせた。「それって、一種のユートピアみたいね。でも、夢追い人が条件ってのはユニークだわ。」

「そうだね。」ダイラは苦笑した。「夢を追い求める人々が、新しい希望を見つけ、未来を築くための場所。だけど、その裏には何かもっと深い謎が隠されている気がする。」

「哲学的に考えると、サルトルの哲学が関係しているかもしれないわね。」ヤマガタちゃんは深くうなずいた。「サルトルは『実存は本質に先立つ』と言っていた。つまり、人間はまず存在し、その後に自らの本質を作り上げていくということ。」

「なるほど、そうか。」ダイラは少し驚いたように目を見開いた。「タワーに入る夢追い人たちは、自分の本質を探し求めているんだ。新たな生活を始めることで、自分の本質を見つけ出しているのかもしれない。」

「その通りよ。」ヤマガタちゃんは微笑んだ。「サルトルの哲学では、人間は自由であり、その自由の中で自分の本質を選び取る責任がある。江戸城ビッグタワーは、まさにその自由と責任の象徴かもしれないわ。」

「でも、クワヤマダくんが帰ってこないのはやっぱり心配だよ。」ダイラは少し憂鬱な表情で言った。

「うん。」ヤマガタちゃんは優しく微笑んだ。「でも、彼も自分の本質を見つけるための旅に出ているのかもしれない。私たちも希望を持って待つしかないわ。」

「希望か...」ダイラは少し考え込んだ。「そうだね。希望を持つことが大切だ。」

「それに、ユーモアも忘れずにね。」ヤマガタちゃんは笑顔で言った。「クワヤマダくんが帰ってきたら、彼の冒険談を聞くのが楽しみだわ。」

ダイラはその言葉に励まされ、少し笑顔を取り戻した。「そうだね。きっと彼も、面白い話をたくさん持って帰ってくるに違いない。」

「でも、もしも彼が戻ってきたら、まずはこのカフェで大きなパーティーを開こう。」ヤマガタちゃんはウィンクした。「そして、彼の冒険談をみんなで楽しむのよ。」

「それはいいアイデアだ。」ダイラは笑った。「クワヤマダくんもきっと喜ぶだろうね。」

ふたりは再びコーヒーを飲みながら、江戸城ビッグタワーの謎について話し続けた。夢を追い求める人々が集まり、新しい生活を始める場所として、このタワーがどんな希望をもたらすのか。ダイラとヤマガタちゃんは、その未来に思いを馳せながら、心に希望とユーモアを持ち続けた。

こうして、ダイラとヤマガタちゃんの会話は続き、江戸城ビッグタワーにまつわる噂や希望についての哲学的な議論が展開された。サルトルの哲学に基づく自由と責任を象徴する場所として、タワーは人々に希望をもたらし続けるだろう。クワヤマダくんが戻ってくる日を信じて、ふたりは心に希望を持ち続けた。