第176話 正しい保健体育が教科になる日
「地方の中学校は教師不足なんでしょ。」
「不足なんてもんじゃないよ。授業開きに教科担任がいなかったなんてザラにある。」
「教師はどこへ行ったの?」
「巷では学校はブラック企業だなんていう噂が立ち、教師希望者が激減した。」
「本当はいい仕事なのに、噂って怖いよね。」
「そして、文科省もとうとう動き始めたんだ。」
「何をするの?」
「美術科を指導教科から消した。」
「え!?中学校に美術の授業や美術の先生がいなくなるの?」
「美術教師のなり手が本当にいないんだよ。世界ではそもそも美術が無い学校が増えているくらいだから、グローバル的な動きも鑑みている。美術は他教科に吸収されたんだ。」
「他の教科の指導要領に割り込んだってこと?」
「国語科では対話式や比較鑑賞、数学ではエッシャーを代表する幾何学アート、理科は実験的アート、社会科は美術史、英語科はAIオークション作法、音楽科は総合芸術、保健体科は写生大会とサブカル、技術科はプロジェクションマッピングや3Dプリンター、家庭科は展示方法や自炊で生き抜く方法、AIに人間ポイ作品を作らせる方法、ざくっとこんな感じだよ。」
「う~ん。美術の断片を無理矢理押し込んだ感は否めない。保健体育のサブカルがちょっと意味わかんない。」
「みうらじゅんのベストセラー正しい保健体育という本を知らないの?」
「あぁ聞いたことある。性教育の本ですよね。」
「あれが文科省で奇跡的に認定された。サブカルアートという扱いで。」
「文科省も大分緩くなりましたね。」
「教科選定特別委員会にいとうせいこうの名前があったから、そこからの押しだと思うよ。」
「家庭科の死なない自炊方法は、役立つと思うなぁ。」
「腐りかけの食材でも何とか生き抜く調理の仕方を教えてもらえるそうだからね。貧乏美大生や海外でアート活動をする人たちには必須の内容になっている。」
「AIに人間ぽい作品を作らせる方法は面白そうですね。」
「評価されず腐りかけの人間臭さをどのようにしてAIに学習させるかが大切なんだ。AIに表現を奪われた悲しみに暮れる人間像は味として再評価されているらしいからね。かなり難しい感情表現だけど、教え涯があるみたいだよ。」
「英語科のオークション作法は異質な感じがするけど・・。」
「ネット―オークションで騙されないようにするためさ。」
「なるほど。」
「美術系の道を歩む人は美術の授業だけが生きがいだったみたいなタイプが多かったけど、各教科に美術的な要素が散りばめられたことで、他教科への学習意欲が高まった子どももいるらしい。」
「美術の教師はどうなるの?」
「他教科で美術単元になったときだけ、ゲストティーチャーとして教壇に立つみたいだよ。」
「そういう扱いの方が特別感があって、美術の先生は輝くかもしれませんね。」
「現代社会の在り様や形態に合っている教科性ということで、美術に興味がある教師希望者が逆に増えるかもしれませんね。」
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