第136話 漂流大学③磔ナウ

「この中央広場の空間は、法隆寺の伽藍配置と・・。」


「我猛くん!12号館前に何か立っている!」


 近代的なビルヂング12号館には似つかわしくない、錆びたH鋼で作られたⅢ体の十字架が立っていた。


「きっきみたちは、どこかで見たことのある??」


「ダイラさん、この3人は褌にモヒカン、もしかして、彫刻科の学生じゃないの?」


「いや~。違う。褌モヒカンは、確かに男神輿連中のように見えるが、よく見ると知らない顔だ。」


「きみたちは、どうして磔にされているの?」


「じっ実は、他学科だったのにも関わらず男神輿に憧れて、モグりで参加したのです。ちょっと調子に乗って、日本酒をがぶ飲みし、ご神体にしがみついた途端に、彫刻科の荒っぽい奴に突き落とされたのです。」


「そんな手荒な真似をする奴はいないと思うんだけどなぁ。」


「高い声で長唄みたいな歌を歌っていました。」


「あっ、それは木遣りきやりだね、諏訪の奴らだ。彼らは天下の奇才御柱を経験している氏子たちだ。ご神体に触れることが許されているのは、諏訪の氏子だけだからね。木落しのときに、県外の野次馬が紛れ込むらしいんだけど、そいつ等とよくやり合っているって聞いたことがある。」


「でも、僕らは、同じ学校の学生じゃないですか。それに、毎年、彫刻科の暴走した連中に屋台を破壊されているんですよ。そのくらい許してほしいっす!」


「彫刻科の連中は、文化祭実行委員から、破壊行動を含めて、演出の一環として頼まれていると言っていたけどなぁ。」


「それを言うなら、その後の謝罪の会も演出なんですか。」


「みんな丸坊主にして、方々に謝りに行く姿を見ると、学生たちは秋の深まりを感じるという、謎の風物詩となっている。」


「だっダイラさん。」


「うわ!一番瀕死だと思っていた奴がしゃべった!」


「ぼっ僕は彫刻科です。」


「え?君、彫刻科にいたっけ?で、なぜ君が磔にされているの?」


「僕は、ただの趣味です。彫刻科での存在感は0%なんですが、ロン毛でやつれた顔をして歩いていただけで、他学科の人たちから拝まれるのです。キリストというあだ名がいつに間にかつけられていました。」


「ある意味、一番ポピュラーで目立っていたんだね。」


「山パン工場の深夜バイトでカリッカリに痩せました。」


「3人ともよく見ると、かなり複雑な縛られ方をしていますよ。」


「我猛くん!これは亀甲縛りだ。この縛り方と磔演出の巧妙さは、彫刻科の仕業じゃない!こんな丁寧で強度のある仕事ができるはずがない!」


「ダイラさん、よく分かりましたね。これは、とある学科のそういうお店が大好きな奴に縛ってもらいました。十字架はデザイン科の奴が作りました。」


「やるなぁ~。この大学には彫刻科になりすまして悪いことをする奴らが後を絶たない。あそこで汚いツナギで歩きながら煙草をポイ捨てした奴も、彫刻科に見えるが、実は建築科だったりする。」


「どの学科にも、ルーズでアコギな奴らはいるのですね。彫刻科になりすまして、悪さをするけど、意外と仕事が丁寧なところが見分けるポイントなのですね。」


「この大学の闇の深さを知ってしまった。」







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