第366話 ドームのない集団記憶喪失
「ちょっと、これ読んでみてくれないか?」
平さんが口を開いたのは、朝の光がスタジオの窓から差し込む静かな時間だった。机の上にはユーザーからの苦情メールが山積みされ、その内容は辛辣だった。
「このダイラ物語には、整合性が全くない!」
「何が起こっているのかさっぱりわからない。意味がない!」
「ダイラとクワヤマダくんが出てくるのはわかるけど、結局何が言いたいんだ?」
平さんはそのメールを手に取り、眉をひそめて言った。「うーん、確かに一理あるな。」
その隣でダイラはハンモックに寝転び、軽く鼻をかきながら笑った。「整合性だって?俺たちの話にそんなもん、最初からあったか?」
クボタが、バイト帰りの疲れた顔で、呟いた。「そもそも、僕たちのこの物語って何だ?これはただの宇宙的な幻影か、情報の流れに過ぎないんじゃないのか?」
その瞬間、スタジオ全体が静まり返った。しばらくして、ダイラが唐突に笑い声を上げ、「そうだ、集団記憶喪失にしちまえばいいんだ」と言い出した。
クボタは驚いた顔で「集団記憶喪失?」と尋ねた。
「そうさ、俺たちは全員、物語の中で自分が何をしていたか忘れてるんだ。何も覚えてないんだから、整合性なんか関係ないだろ?」ダイラは自信満々に言った。
だが、その時、AIスボイが冷静な声で割り込んだ。「記憶喪失は面白いが、それはただの逃避だ。意味と整合性の問題は、記憶の有無にかかわらず存在する。」
ダイラは肩をすくめ、「屁理屈はもういいっての。俺たちが楽しんでるかどうかが重要なんだ」と笑った。
その時、ふと平さんが思い出したように言った。「おい、ダイラ、そういやお前、未来から来たんだろ?あのドームのタイムマシンの修理がどうなったか覚えてるか?」
ダイラは瞬時に顔を曇らせたが、次第に瞳が輝きを取り戻した。「ああ、そうだ…俺たち、未来から来てたんだっけな?タイムマシンが故障して、ずっとここに取り残されてたんだ。」彼は突然真剣な顔つきになり、急いでハンモックから飛び降りた。「クワヤマダくん、タイムマシンを直さなきゃ、未来に帰れねぇぞ!」
クワヤマダくんは、どこか遠くを見つめながらうなずいた。「そうだな…。俺たち、ここで何してたんだ?羊羹が宇宙食だとか、ナスカの微妙絵だとか…全部が記憶の断片みたいだ。けど、俺たちは未来に帰るためにここにいたんだよな。」
「そうだ!未来に戻らなきゃ。」ダイラはタイムマシンがあったドームへ向かうべく、スタジオを飛び出した。
クボタは彼らのやりとりを聞き、困惑した表情で「未来に帰る?おい、これは現実の話か?それともまたいつものカオスか?」と呟いたが、ダイラはそれに応えず、夢中で未来への帰還を目指していた。
平さんは腕を組んで、メールに目を落としながら、「未来への帰還ねぇ。物語に整合性なんかなくても、どうやら出口は見えてきたかもな」と笑った。
ダイラ物語は、過去も未来も曖昧に交錯しながら、カオスなまま進んでいく。物語に整合性があるかどうか、それは問題ではない。重要なのは、彼らが再びタイムマシンを修理し、未来への帰路を見つけるかどうか。そしてその旅路の中で、彼らは何を思い出し、何を忘れていくのか…。
AIスボイが冷静に付け加えた。「未来に帰るとしても、記憶の断片をつなぎ合わせることは容易ではない。全ては情報、そして物語もまた、無限の情報の一部に過ぎない。」
クワヤマダくんがぼんやりと空を見上げ、「未来…タイムマシン…記憶を取り戻すって、そんな簡単なことじゃなさそうだな。でも、俺たちならなんとかするさ」とつぶやいた。
こうして、彼らは未来へ帰るため、タイムマシンの修理を思い出し、再び物語は動き出す――整合性や意味のあるなしにかかわらず。
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