第408話 もこもこもこの子

ニューヨークのアパートで生まれた『もこもこもこ』。その背後には、詩人・谷川俊太郎と画家・元永定正の静かでありながら壮大な共同作業があった。この話を、ダイラとクワヤマダくんが夜空を眺めながら語り合っている。


クワヤマダくん:

「先輩、谷川俊太郎さんって、なんであんなに人の心に響く詩を書けたんでしょう? ただの言葉なのに、なんかこう、全身に染み込む感じがします。」


ダイラ:

「それは、谷川さんが“詩人”という役割を自分の生き方に完全に取り込んだからだと思う。スイミーのように、小さな存在でありながら、周りを導く目となる覚悟があったんだよ。」


クワヤマダくん:

「スイミー? あの、みんなで大きな魚のふりをするスイミー?」


ダイラ:

「そう。谷川俊太郎の生き方は、スイミーそのものだった。自分ひとりでは弱いかもしれないけど、詩を通じて周りを動かし、ひとつの大きな流れを作っていく。『詩人』という小さな役割を全うしながら、時にはその流れの目となって新しい方向を示していった。」


クワヤマダくん:

「なんだか壮大だけど、それってものすごく孤独でもありますよね。」


ダイラ:

「そうだな。だけど、孤独を抱えたままでも、美しさや希望を言葉で形にする。その結果、人々が彼の詩に心の安らぎや広がりを感じるんだ。『もこもこもこ』もそうだ。谷川さんの言葉と元永さんの絵が出会い、小さな絵本なのに無限の宇宙を感じさせる作品になった。」


二人は手元の『もこもこもこ』を開きながら、そのページに広がるもこもこの世界をじっと見つめた。


クワヤマダくん:

「もこもこした形がこんなに広がるなんて…。なんだか、ただの絵本を読んでる気がしないですね。まるで宇宙にいるみたいです。」


ダイラ:

「谷川さんは言葉で、元永さんは形で、その宇宙を表現したんだ。しかも、この二人がニューヨークのアパートの上下階で、日常の中からこんな壮大な作品を生み出した。詩と絵がこれほど響き合うのは、二人の感性が“シンプルさの中にある無限”を見ていたからだと思う。」


クワヤマダくん:

「でも、スイミーの話を聞いて、谷川さんの人生って少し怖いと思いました。あの赤い魚たちに頼られるスイミーみたいに、周りに影響を与える役割ってプレッシャーもすごそうです。」


ダイラ:

「確かにな。でも、谷川さんの詩はそのプレッシャーを超えて、どこか安心感を与えるんだ。まるで、“みんなで泳げば大丈夫”って言っているようにね。」


夜空には無数の星が輝いていた。谷川俊太郎の言葉と、元永定正の形。それらが織りなす宇宙のような絵本『もこもこもこ』は、二人にとってもインスピレーションそのものだった。


クワヤマダくん:

「先輩、僕もスイミーみたいに誰かの目になるような生き方がしたいです。でも、僕には目じゃなくて感度抜群のアンテナしかないんですよね…。」


ダイラ:

「アンテナがあれば、もっと遠くを見渡せるじゃないか。谷川さんや元永さんみたいに、何かを表現する力は誰にでもある。きっと君も、それを見つけられるさ。」


二人の会話は夜更けまで続いた。『スイミー』と『もこもこもこ』。そのシンプルな物語の中にある深い宇宙を感じながら、ダイラとクワヤマダくんは静かに未来の可能性について思いを馳せた。

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