第440話 非創造の時代

場所: ダイラのアトリエ。天井から異星人の彫刻が吊るされ、壁には無数の光と影が遊ぶ未来的な照明装置が設置されている。栗瑛人くん(通称クリエイト)は革新的なアイデアで知られる若手未来学者で、今日は生成AIの影響について話し合うために訪れた。


1. AIが文化に与える影響

ダイラ:

「生成AIの進化を見ていると、本や雑誌、新聞といった紙媒体はもはや骨董品になる日が近いな。映像やイラスト、デザインもAIの精度とコストパフォーマンスには敵わない。全てが効率化され、創造がコモディティ化している。」


クリエイト:

「その通りだね。ただ、文化の消滅というより、システム化された文化に置き換わるんだろう。例えば、過去には写本職人が印刷技術に取って代わられたように、AIが創作の標準を作るだろう。もはや作家やデザイナーが“職業”として成立する時代は終わる。だけど、絶対にAIが埋められない分野もあるはずだ。」


2. AIが作れないもの

ダイラ:

「例えば何だ?ロボットがほぼ全てを完璧にやれる時代に、どんな“手作り”が価値を持つ?単なるノスタルジーか?」


クリエイト:

「部分的にノスタルジーだけど、それ以上に“偶然性”と“非合理性”だよ。AIはパターン認識に優れているけど、予測不可能な失敗や非効率の美しさは理解できない。例えば、手で投げた陶器が窯の中で偶然にひび割れたデザイン、あるいは職人の『その場の直感』で生まれたもの。これらはプログラムされていない“揺らぎ”だから価値がある。」


ダイラ:

「確かに。AIが完璧なバオバブの木を描くなら、俺が描くバオバブは葉っぱが左右非対称だったり、クワヤマダ式タンクトップを着ていたりする(笑)。この“偏差”が今後の文化を生き残らせる要素なのかもな。」


クリエイト:

「加えて、儀式や感情が関わるものもAIには作れない。例えば、結婚式のための手作りの衣装や宗教的儀式の装飾。これらはただの物質以上の“意味”を持つからね。」


3. ノスタルジー商品の生存戦略

ダイラ:

「じゃあ、合理的には生き残らない人々の“ノスタルジー商品”ってどんなものだ?」


クリエイト:

「古いフィルムカメラ、手製の万年筆、アナログレコード、タイプライター……要するに、“非効率的で触れる喜びがあるもの”だよ。電子書籍が主流になった後も、紙の本が残った理由を思い出してほしい。ページをめくる感覚やインクの香り、それにまつわる記憶がノスタルジー商品を支えているんだ。」


ダイラ:

「でもそれって、合理主義が徹底する次世代では消えるんじゃないか?次の世代にはそもそも“触感”や“ノスタルジー”という概念が理解されなくなるかもしれない。」


クリエイト:

「そうだね。特にクリエイティブという概念自体が“アウトプットを作る”ことから、“システムを組み立てる”ことに変わるだろう。つまり、次世代のアーティストは“AIに作らせる方法”をクリエイトする技術者になる。」


4. クリエイティブ消失後の未来

ダイラ:

「となると、文化って何になる?創作が効率の言葉に飲み込まれた後、人類は何を楽しむ?」


クリエイト:

「文化はおそらく、消費者の体験を中心に進化すると思う。過去の芸術作品をVRやAIが再現し、視覚や触覚、嗅覚までもフル活用して没入体験を提供する。それは創作じゃなく、消費体験が“新しい芸術”とみなされる世界だよ。」


ダイラ:

「じゃあ、作る楽しみも消えるのか……。それってもはや人間らしい生活と言えるか?」


クリエイト:

「そこが興味深い点だ。人間らしさの定義自体が変わるかもしれない。歴史的に見ると、農耕時代の人間が“遊ぶこと”を理解できなかったように、次世代は“創造”という行為を理解できないかもしれない。ただ、“生成されるものを消費する”生活が彼らにとっての人間らしさになるんだ。」


5. 未来的希望はどこにある?

ダイラ:

「なんだか寂しい未来だな。でも、それでも人類は何かを失っても新しいものを作り続ける気がするんだよ。」


クリエイト:

「それは希望だね。AIに何もかも奪われても、きっと人間は“AIには見つけられない価値”を追い求める。それが新しい哲学や宗教、あるいは新たな形の感情的な繋がりになるのかもしれない。未来の文化は、必ずしも合理的ではない“人間らしい欠陥”が中心になるだろうね。」


ダイラ:

「そうか……じゃあ俺も、AIが描けないバオバブのクワヤマダ式タンクトップをもっと研究しておくか!」


クリエイト:

「バオバブの未来、見せてもらおう(笑)。」


エピローグ

二人は最後に、アトリエの中央に立つ巨大な彫刻を眺める。それは、AIが絶対に作れない「失敗作」の集大成。ゆがんだ形状の中に、未来の可能性を見出すように光が差し込んでいた。

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