第5話 〇〇ドームのないプラネタリウム

彫刻学科の男子学生のステイタスなスタイルとして、坊主&髭が多かった。その中でも語尾にバイをつけている者は福岡出身だった。


ダイラは東京出身、テクノカット(YMO坂本龍一風)にサングラス、茶色い革ジャンにジーパン姿で、周囲とはセンスの違いを出していた。


重量のあるH鋼(断面がH型をした鉄材)を運ぶときは、福岡出身者に声をかけると、「OKバイ」と快く手伝ってくれたので、自然と仲がよくなった。


ダイラは鉄板を三角チーズクッキー型に切り刻み、それを縦横無尽に溶接すると、有機的な形ができることを発明していた。



鉄板に細かい穴を無数に空け、内側から光を当てると、光が漏れ、銀河が出現することにも気付いていた。


胸を躍らせながら、朝から晩まで工房で鉄と格闘していた。


秋の大学祭のイベントの一つとして、彫刻学科では、男神輿おとこみこしなるものが数年前から行われていた。


丸太を男根型に彫刻し、男子学生たちは赤褌、モヒカンで、大学祭最終日の夜、男根神輿を担ぎ練り歩く。


しかし、ダイラはそのような彫刻科の企画にはあまり興味がもてなかった。


問題が起きた。


ダイラはカール・ツァイス・イェーナ社製「ツァイスII型」のプラネタリウム形を参考に、三角形の鉄板を繋ぎ合わせて球体にし、円柱の両サイドに二つの球体がつくような形をつくっていた。


慣れない溶接作業を駆使し、円柱に球体をつけたところまではよかったが、何かが足りないと感じていた。


「〇〇ドームのはまらないプラネタリウムをつくってるのか?」とダイラを下ネタであおってきた者がいた。


煽ってきた者は、くじ引きで負け、一人で寝る間も惜しんで男根を彫刻させられ、過度のストレスがかかっていた先輩だった。周囲の仲間たちから、が出ていないと追い込まれ悩んでいた。


自分の課題にも手が回らず、充実した制作をするダイラが羨ましく輝いて見えてたのだろう。


ダイラは無視を決め込んでいたが、近くにいた福岡出身の仲間が反応した。


「キサマ、何言いよっちょんねん!しばいたろか!」


福岡出身者は情に厚く、不気味なほど正義感が強い傾向がある。


煽ってきた奴と福岡出身者が衝突した。


元相撲部の福岡出身者が、煽り野郎を突き飛ばした瞬間、ダイラのプラネタリウムの円柱に激突した。


ダイラはサングラスを取り、作品に駆け寄った。


プラネタリウムの円柱がぐにゃっと曲り、ダイラが追い求めていたムーブメント(そり)が出現した。


「これだ!」


ケンカが続いている二人を尻目に、ダイラの声は工房に響いた。















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