第59話:妨害再び、それをも回避

 ティングへ向かう門周辺に兵士が待ち構えているのに気付き、俺は警戒度をMAXにして万が一に備えた。


 これさぁ…何が何でも小桜を捕獲しようと待ち構えているよね?


【…そう感じますわね。知的な侯爵だと人族が噂してましたのに、

 娘の言動で「こうも変わる」とは御粗末すぎですわね】


 基本、従魔の声は他人に聞こえない。


 と言うより念話なので聞こえる筈が無いから安心して会話が出来る。


 だったらさ、小桜じゃなくてゴマを連れ歩いたら抜けられないかな?


【抜けられる可能性はありますわね】


 じゃあ小桜は控えてゴマ出ておいで~。


『リョーにぃ、やっと会話できるね♪僕うれしい!』


 …確か犬の年齢って3歳で27~28だっけ?


 と言う事は…ゴマって年下。


 しかも後から「権太はココにいた」と思ってしまい、名づけが間違っていたと気付いた。


 ゴマ、これから兵士の横を通るから何か言われても吠えないでね?


『はーい』


 兵士は「フェンリルを連れた子供」を探している筈だから、それ以外の動物を連れた子供は除外だろうと踏んでいた。


「坊主、珍しい獣を連れてるな。従魔か?」


「うん、僕の家族!」(リョー兄ぃ…)


「そうかそうか、

 フェンリルを連れた君くらいの子供、

 見て無いか?」


「う~ん…僕しらないよ?」


 俺ですがスルーさせて貰います、何せ家族の小桜を捕獲されたくないんでね。


「そうか、君はティングへ行くのか?」


「うん、色々な場所を見て回ってるの!」


 内心は、アヴェルから出て普通に討伐したいなってだけだが、この状況を見て、あの姫さんが爵位を使って人を派遣して「俺の小桜」を「自分のペット」にしたいと我がまま言ったんだろうな…と推測できた。


「そうか、気を付けてな」「はーい!」


 何とかアヴェルから出立する事が出来た俺は、門番が見えなくなって直ぐ、小桜を呼び出した。


【それにしても影に従魔が控えているかも知れないと言う事を考慮しないなど、

 有り得ませんわね】


 確かに、何もとがめられる事なくスルー出来たからな。


 連れているのがゴマってだけで。


 連れている子供の特徴とか聞かされてなかったのかな?


【本来なら有り得ませんが…有りそうですわね】


 まあティングまでは小桜の足で数日?


【流石に数日では無理ですわ。

 1週間は頂きたいですもの】


 まあリッツェで学校が始まるのは3か月後だから行けるよね。


 でも小桜に無理させたくないから、休みながら向かおうか。


【そうして下さいまし】


 小桜の背に乗り俺は、ティングへと向かい始めた。



 * * * *


 その頃、アヴェルではティング側の門で、侯爵令嬢が通過した子供の情報を聞き苦虫を噛みしめていた。


「何て事!

 子供をやすやすと通してしまったのですか!?」


「・・・そう言われましても特徴など聞いておりませんでしたし、

 彼はフェンリルを連れて居ませんでしたので…」


 兵士の内心は「こんな令嬢がいる領地を守りたくないな」である。


 ギャンギャンと五月蠅うるさく喚き散らす令嬢に困り果てていたのだが、やはり親の鉄拳が頭に炸裂し、ようやく兵士の任務が解かれ安心して暮らせる場所への移動をする事を決めた瞬間でもあった

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