第147話:報告しに来ただけなのに・・・

 安全になった…との報告が魔道具で成されるまで、自宅待機を余儀なくされた者と、領主邸まで避難して行った者とに分かれてはいるが、ギルドでは何も騒ぎが無い事に不安が募り始めていた。


「何も報告が無いと言う事は、

 対峙し苦戦を強いられているから…

 でしょうか」


 受付嬢のケイトは、不安げにサブマスに問いかけた。


 ギルマスは真っ先に逃げ出しており、職務怠慢で資格剥奪される可能性すら出ている。


「判らん…。

 AからSSまでの冒険者が動いているが、

 流石に何者かが襲撃しているとなれば、

 死闘になってしまった可能性すら有り得る」


 ギルドに備え付けられた強固な窓から外を見ていると、ギルドから襲来者の正体を調べ、討伐すらしなければならない状態で出たリョータの姿をサブマスが捕らえた。


「リョ、リョータ?!」「えっ!?」


 鍵を開けリョータを迎え入れる準備を整えると、カランカラン…と扉を開ける音が聞こえた。


「襲来者の報告と討伐完了の報告に来ました。

 もうリッツェは安全になりました」


「「「本当か⁉」」」


 戦えぬ者たちが一斉にリョータを囲み「本当に安全となったのか?」と物凄い勢いで問いかけ、リョータはその勢いに押され尻もちをついてしまう。


「うわっ!

 ちょ、ちょっと落ち着いて下さい!

 襲来したモノは、

 ワイバーンとドラゴンの王様討伐してくれましたから!」


 ギルマスやサブにだけは本当の事を報告するつもりでいるが、他の冒険者や子供に本当の事は伏せるべきだと判断し、真実をいつわったのだ。


「そうか!

 倒して下さったのはワイバーンたちだったか!」


「じゃあ自宅待機してる人たちや

 領主邸に避難した人たちを戻して構わないわね?」


 何とか尻もち状態から解放され、立ちながら報告を続けた。


「は、はい。

 避難してる人たちは戻っても大丈夫ですが…

 その孤児院にいた子は…」


「・・・そうね・・・。

 このままいて貰いましょう」


 孤児院で起きたであろう惨劇の詳細を知っていなくても、雰囲気で感じ取ったケイト。


 サブマスは緊急事態が収束した事を知らせる鐘の音を響かせて行く。


 家にいた者たちはそれぞれ動き出し、領主邸に逃げていた者たちは自宅や学校へと戻って行く。


「そう言えばギルマスは?」


「あぁ、ギルマスなら早々に逃げ出しちまってな、

 サブマスの俺が仕切る事になっちまったんだ」


「なら学校で起きた事を報告するならサブマス?」


 そうだな、と言おうとしてるサブマスより先に、ギルドへ逃げていた人々に囲まれて、俺は身動きが取れなくなった。


「有難う!有難う!

 危険を顧みないで、

 暴漢者を追いかけ、

 討伐に導いてくれたんだろう?!」


「大半の人々を救ってくれて、

 ありがとな」


「ちょっ…離し…うぐっ」


 次々とハグされたりデコにキスされたり、頭を撫でられたりして俺はギルマスに殺されかけた時の事を思い出してしまった。


 し・・・しぬっ。


 ぐで…となったのに気付いたサブが


「何をやってるんだ!

 そんな大勢で子供を抱きしめたりすれば死んでしまう!!」


 と人々の凶行から助け出してくれた(あぁ、2度も空気が美味しいと感じるとは…)

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