第399話:絵師に交渉…する前に厄介ごとを片づける

 絵師と呼ばれる人物が、実は元男爵令嬢で「変わり者」と呼ばれるくらいに凄いスキルの持ち主で「とことんこだわりを持って作業に没頭してしまう」などと知らないリョータは


「訳アリって言ってたけど…俺くらいの訳アリじゃないよな」


 と180度違う考えを持って、令嬢が暮らすとされる工房地域へと向かい始めて居た。


 勿論、その背中を追いかけて来る馬鹿も居る訳で…


「・・・僕を追いかけて来るのは何の為?」


 と思いっきり「気づいてるんだけど?」とジト目で後方に視線を向け、追いかけて来た馬鹿と対峙する事にした。


 そうしなければ何時まで経っても、クロフォード商会の商売敵しょうばいがたきに尾行されると気づいたからでも有った。


「き、気づくなど…君は何かしらの能力を持って居るのかい?」


 丁寧な返し方をして来た人物は、商売敵の会長らしき人物だと、鑑定結果に出て居たが「名前を覚えるつもりが無い」為、情報は完全にスルーしたのだ。


「別に?僕…冒険者だもん。気配には敏感なんだ。

 僕を追いかけて来る理由、教えて貰って無いんだけど?」


「君…クロフォード商会ではなく、

 私の商会で仕事をしないかい?」


「何で?」


「なっ…何でって…クロフォード商会より、

 給料を出そうではないか」


「クロフォード商会で手伝ってるけど、

 報酬を貰ってる訳じゃないけど?」


「え・・・」


 金銭で買収しようとしたのだが、不発に終わり唖然としてしまう馬鹿会長。


「もう行ってもいい?」


「ちょっ…ちょっと待て!

 何故、報酬なしで手伝ってるんだ?!」


「僕のお願いを聞いて貰ってるだけだもん。

 レイさんから頼まれたとしても、

 報酬は貰ったりしないよ?」


「な、何故…」


「だってレイさんの婚約者と知り合いだし、

 僕の希望の品が売られてるんだもん。

 報酬なんて貰える訳ないでしょ。

 じゃあね」


 絵師の住まいは目の前に有るのだが、未だに立ち去ろうとしない馬鹿な会長の目を欺く為、わざと自宅前を通過し、別の人が居る工房を覗き見する事にした。


(あ~あ…あの馬鹿が居なければ、訳アリな職人の工房を直接、訪問できるんだけど…このままだと職人にも迷惑かけるしな…)


 覗き見したのは車には全く関係の無い家具の工房だった。


「あら、いらっしゃいな」


「どんな家具が有るか見てもいい?」


「ええ。買わなくても構わないから見てちょうだいな」


 助かります…と言って並ぶ家具を見て行くと、子供用の勉強机と椅子のセットや、見た事が有る机など、様々な品が揃えられて居るのが判った。


 そして、その後方から馬鹿がやってきて


「このっ…無視して他人の工房に何事か願い出るんだろ?!

 許さんぞ!」


 と斬り掛かったので即座に抜刀し、背中に工房主を庇った状態で


「ふ~ん…やっぱりクロフォード商会にお願いして正解だった。

 工房主の女性にすら暴力を働くような商会に、

 願い出る事なんて無いから」


 剣術もリョータが勝利しており、庇う姿は騎士そのもの。


 どちらが有利か?と問われればリョータに軍配が上がり、駆け付けた自警団に馬鹿な会長は捕縛され、迷惑を掛けてしまった家具屋の女性には


「僕が入って来たばかりに怖い思いさせて御免なさい」


 と謝罪し、許しを得る事が出来、ようやく変わり者と言われる絵師の工房へと向かう事が出来たリョータだった

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る