第58話:我がまま姫の妨害

 前門のひめ後門の出口…ではあるが、彼女に背を向けた瞬間、処罰されかねないとかせぬ。


「きょ、許可なら、わたくしが出していますわ!

 平民なら、わたくしに従いなさい!!」


 …馬鹿なの?いくら令嬢とは言え、領地から出るのに「子供が許可を出す」事は「無い」筈だよね?!それを「出している」とか…自滅するの判ってるのかねぇ。


 又、平民に絡み妨害しているのか…と言う目が彼女に突き刺さっているにも関わらず、平然と仁王立ちしている様は姫と言うより悪役令嬢。


 門の横…と言うより近くに彼女の屋敷が有るのだが、そこから執事に伴われ、怒りに顔を顰めたダンディーな様相の男性が、頭に拳を落とす用意をしているのに気付いた。


 あ~あ、これ雷が落とされる奴だねぇ(ご愁傷様~)。


           ゴンッ!


「いっ?!」


「ナタリー?何をしているのか答えなさい」


「お、お、お…お父様ぁ?!」


「何をしているのか、と聞いたのだが?」


 絶対零度で答え次第では軟禁する…と言う雰囲気がヒシヒシと伝わって来る。


 流石だなぁ~。


 この侯爵様は、逃げ場を一切つくらず、娘を追い詰めているや。


「あのっ…そのっ…

 こ、このっ…

 この子が勝手に領地を後にしようとしていたからっ…

 引き留めてフェンリルをつもりでしたの!」


 をぃ?!今、何て言った?フェンリル小桜を「貰う」って言ったよね。


「・・・彼の従魔だと判っていて、

 と言ったのかい?」


 顔面蒼白…実は従魔と「知らずに貰う」と言ったとは白状できる訳も無い。


 美しい毛並みのフェンリルを連れた冒険者がいる、と言う情報で飛び出して来たに過ぎないのだ。


「・・・りません…知りませんでしたわ!そんな事!!

 わたくしは侯爵令嬢ですわ!

 平民がフェンリルを持つなど有り得ませんわ!!」


 瞳を潤ませフェンリルが欲しいと訴えて居るのだが、それを許さない雰囲気を令嬢の父親が醸し出してる。


「名を聞いておらぬので、

 名を告げて謝罪をしようにも出来ぬが、

 詫びさせて頂きたい。

 どちらかへ移動される途中に引き留めてしまったのでしょう?」


「・・・はい。こちらの領地は10歳の僕じゃ、

 入れないダンジョンしか存在して無いと、

 他の冒険者から伺いました。

 なのでティングに向かい魔法の練習をしようと思っていたのですが…

 そちらの令嬢から領地を出るなら自分の許可を貰ってからだと言われまして…」


 彼女の言ったセリフを父親に白状すると、目をスッ…と細めて


「ナタリー…誰が領地から出るのに許可を出しているのかな?」


 許可を出さずに移動できる筈なのに何故、出したのか?と問いかけて居るのだが、令嬢は一切、反省の色を見せて無かった。


「・・・フェンリルが…欲しかったんですもの」


 小桜の毛並みを見て更に欲しくなったんだろうな。


 それでも他人が登録した従魔を自分の「ペット」にするなど、言語道断である。


「はぁ…すまないね。

 君の従魔を我が娘が欲しがるなど、

 有り得ないんだが、わがままな姫でね。

 その…フェンリルを譲ってはくれないだろうか?」


「は?!譲る…?

 自分の家族を売り渡せと言われるのですか?」


 娘の欲しがる姿に絆されたのか、俺にフェンリルを譲って欲しいと言ってしまったのだが、俺の言葉を聞いて「はっ!」とした侯爵。


 冒険者が使役した魔物を譲れと言うのが「ご法度」だと思い出したのかも知れないが、常識が抜け落ち、自分より身分が低いなら「譲ってくれるだろう」と過信していた事を恥じ、深々と頭を下げ娘を連れて屋敷に戻って行き、とりあえずの問題は解決したかのように思っていた

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