第377話:完成品を走らせる場所…何処!?

 見本と遜色ない職人が作った商品が、座席やバックミラーなどを除いた状態で出来上がった…までは良かったのだが、魔石を組み込んだ状態で「本当に走るのか?」と言う実験場が現状では存在しない。


「リョ、リョータ…この職人が作った品が完成したとして、

 本当に走るのかを実験する場所として、

 何処を考えに入れてるんだ?」


「その事なんだけど…未開発な山って無いよね?」


 未開発な山…?と言う顔になるもの仕方がない。


 何しろ山と言えば鉱山くらいしか思い浮かばないのだ。


「・・・あるにはあるが・・・

 ムーア卿の領土…だったと思う」


 名前を聞いた瞬間に「屍食鬼となった同級生の…」と思い出した。


「もし…もし、その山を開拓したい…と望むなら…

 ムーア卿と交渉になる…?」


「なるだろうな」


「交渉するなら…全て教える必要が…

 ある…よな?」


「山を開発する必要があるなら、

 交渉しなければならないだろう?

 それに…(見本の車を指し)コレ…

 動かす所は見たが走るのだろう?

 その走らせてる姿…俺たちも見たい…

 と望めるのだろうか」


 確かに「走る姿を見た事」がなければ「これが王都へ向かうには有効だぞ」とも「危険だぞ」とも言えない。


 見た状態ならば「安全」で「快適な旅」が出来る…などの「うたい文句」は言えるようになる。


 交渉…か…しかも…俺の「正体」を明かした状態で…となると…覚悟がいるな。


「勿論、山を開発する事を交渉でき、開発が進み、

 実験場所が確保された状態なら見る事も乗る事も可能になる。

 走行実験…と呼ばれる事柄だが、

 売る事になれば、どのような品かを説明できなければ無理だろ?」


「・・・確かに・・・」


「速度と言うのを設定しなければ危険だし、

 俺の時代でも事故ってのは起きてるからな。

 どう言う危険も持ち合わせているかを説明する必要もある。

 何も体験してない状態ではれも難しいだろ?」


「確かに見た目は馬車だから、

 馬車と同じ危険は考えられるかも知れないが、

 それ以外の危険は体感してなければ説明できない。

 危険だけでなく動かす方法も今の時点では知らないからな。

 そうこうじっけん…だったか。

 体感して経験して何がどうだ…と説明できるようには、

 ならなければ…な」


「ま、それが出来るようになるか否かは…

 俺の交渉に掛かってるんだろうけどな」


 苦笑を漏らしながらも自分の空間を何処に作るかの目安を決め、その足でムーア卿の屋敷へと向かう事とした。


「リョータ…1人で…大丈夫か?」


「一緒に来たとして、

 俺の正体を正確に伝えられるのか?」


「…無理だな…」


「(ふっ)…気持ちだけ貰っておくよ」


 敷地から去るリョータのシルエットが大人なシルエットに見えてしまったレイ。


 ゴシゴシ…と目元をこすってみれば、子供なリョータの背中に戻っていた。


(何だか、大人に見えてしまったが、元を正せば大人だったんだもんな)


 期待と不安が入り混じった状態でリョータは走行実験する為の交渉へ歩みを進めるのだった

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