第299話:勝者リョータからの提案

「…いくら何でも訪問直後に戦いを挑まれた上に、

 魔力が子供ではないなどと否定されるのって、

 大人の男性として…守ってる門番さん、

 アリなの?」


 殺気をゆっくりと戻しながら私兵に質問し、子供に何たる事をしでかしてるのか、と睨んでいた私兵は


「ないな」


 とキッパリ綺麗に否定してくれ、領主は「ぐうの音」も出ない状態と化し


「う…す、すまぬ…

 スタンピードを収めた其方そなたの力量を見たかったのだ」


「…見たかったから面会の許諾くれたって事?

 それなら、理解して貰えたんだから僕からの話、

 なかった事にし…「ちょ、ちょっと待ってくれ!

 どうか…どうか話だけは聞かせてほ…」だって、

 僕の希望を叶えてくれる為に面会を許可した訳じゃないんでしょ?

 そこに隠れてるの…参謀として有名な奥様…

 ですよね?」


 バツが悪そうにしつつ、隠れていた場所から姿を現す夫人を見た私兵も呆れ顔。


「…夫婦揃って何をなさってるんですか…」


「何か…すべて見切られていた気がしますわね」


「本当に申し訳ない…。

 いくら相手がスタンピードを収束させ、

 厄災のドラゴンを討伐するのに助力した少年と言えど、

 この態度は…ないな。

 中へ入ってくれ」


 はぁ~…と最大級の溜息を吐き出したリョータに私兵が


「旦那様と奥様の態度、

 申し訳なく思う」


 と謝罪してきたので思わず


「それって門番さんが謝罪する事じゃないよ?

 興味本位で、

 子供を倒そうと思った領主様が悪いと思うんだけど…

 あの話…持って来なきゃ良かったのかも…

 とは思ってる」


 と答えた。


 それを聞き、玄関先で成り行きを見るしか出来なかった執事が


「…旦那様方にはキツク…

 ええ、物凄くキツ~イ説教をさせて頂きますので、

 怒りを抑えて頂ければと思います」


 と丁寧に謝罪してくれたおかげか、怒りは幾分か収まりを見せている。


「…判りました…」


 玄関先からは執事の男性が案内してくれるらしく、エリア様とグレース様は別々の方向へと戻っているように見えた。


「旦那様方は動きやすい恰好でおりましたので、

 面会には向きませんので着替えに戻って頂きました」


 不思議そうな顔をしていたからだろう、そう説明が成された。


「そうでしたか。

 しかし、良く子供との面会を執事さんが許しましたね?」


「…いえ…。

 私は面会するのが子供だと知らされておりませんで、

 旦那様が戦いを挑みに行かれてしまったのを追いかけた所で、

 ようやく、

 相手が子供であると…

 お恥ずかしながら知りまして…」


「・・・そう言う事でしたか…」


 なら転生して来た云々うんぬんバラし教えたら駄目だ。


 何かのタイミングでポロ…っと白状しかねない。


 乗り物の事で相談に来た筈が、秘密事項を教える事なく、尚且つ異世界の乗り物が原点である事を知られてはならないと言う、かなりハードルの高い交渉術を余儀なくされたと知った瞬間となったのは言うまでもないだろう

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