第370話:職人に打診~sideカーテン職人

 鍛冶職人と鏡職人を伴ってクロフォード商会へと進む途中、リョータは


「すみません…個人的な交渉をしたいので、

 寄り道していいですか?」


 寄り道したいと子供らしく願い出た(正体は明かしてない)。


「個人的な」「交渉…?」


 ウォーターとタッソが不思議そうな顔になるのも仕方ない。


 何を作るのかすら知らされて無い状態で、誓約せいやくだけ交わしていたからだ。


「うん…勿論、職人さんたちと同じ品とは言い難いんだけど、

 僕個人で作って欲しい品があるんだ」


 個人的に作りたい品…それは山奥に出来てしまった温泉施設で、男女の区分けに使う「暖簾のれん」。


 今は見えない状態を維持しているが、いずれ誰かに気づかれてしまう。


 男女の区分けがされていれば、入浴施設だと理解できる「かも」知れないと言う思いと、間違って入られてしまった時、女性の方に男性が入る事を避ける意味も含ませていた。


「そう言う事なら先に向かって大丈夫か?」


「ヘンリーさんを見つけたら大丈夫だと思う」


「じゃあ俺らで向かっているからな」


「すみません」


 ひらひら…と手を振りながら、クロフォード商会がある方向へと向かって行く2名。


 リョータは、カーテンの見本が店先に並んでいる工房に入って行った。


* * * *


「いらっしゃい」


 品のいい女性が対応で、出て来てくれた。


「あのね、個人的にお願いして作って貰えるのか、

 教えて下さい!」


 子供が交渉…?と言う顔になったが


「君が注文してくれるって事かしら?」


 と確認して来た。


「うん、子供じゃ駄目だったら…

 レイさんにお願いす…「ちょっと待って?!」へ?」


「クロフォード商会と繋がりがあるの?」


「繋がりって言うか…今、

 特別な品の開発をお願いしてるんだ」


 繋がりがあったら何だって言うんだ?


「そ、そう…いきなり、ごめんなさいね。

 クロフォード商会で誓約して、

 お抱え職人になった人物がいるって聞いたのよ」


「(あー…そう言う事か)…なりたいの?」


「え・・・?

 そ、そんな簡単に聞いて来るって事は…」


「うん、誓約して品を作って欲しいって依頼したの、

 僕なの」


 唖然としてしまうエリーナだが、交渉しなければと…奥にいる夫を呼び寄せた。


「レックス、レックス!

 お抱え職人になれるかも知れないわよ?!」


「な、何だと?!」


 うわ~イケボなオヤジさんだなぁ…。


 何かを作成していたのだろう、手首には針山のような布の塊が嵌められ、手には糸切ハサミが握られていた。


「僕、個人で作って欲しい品だけど、

 布関係だから作って貰う事になるかも知れないんだ。

 もし、なりたいんだったら誓約して貰う事になるけど…

 それでもいい?」


「「ああ、勿論だ!」よ!」


 夫婦、仲良く返事をしたのだが…


「名前…教えて貰えますか?」


 名乗られて無いのでお願い出来ない状態だった。


「あ…す、すまんな。

 俺はレックス、妻のエリーナだ」


「リョータって言います。

 他の職人さんと一緒に説明したいので、

 道具だけを持ってクロフォード商会に来て貰えますか?」


「まさか…住み込み…か?」


 そうだ、と答えたリョータは彼らが用意するまで、店内の品々を吟味し、暖簾の色味を考えたのだ

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