第246話:フェルナンデス家の料理長、固まる

 その日の授業を終え、長期の休日に入る為、寮生たちは自宅へと戻る支度に大忙し。


 勿論、リッツェで暮らしているが遠すぎて、授業に間に合わず、寮で暮らしている者もいて、彼ら彼女らも休み中に課題をこなさなければならないので、資料を詰め込んだりしているのだ。


 そんな中、ルーカスはリョータから貰った握り飯をマジックバッグに入れた状態で帰宅の準備を整え終え、馬車が到着するのを待っていた。


「しかし不思議な下級生だな。

 普通なら、先を読んで準備する事など皆無なのだが、

 料理人が望むかも知れないと踏み、

 試食用の品を用意してくれるとは…」


 鍛錬に使いボロボロになってしまった剣は侯爵家ゆかりの鍛冶職人へ預けるべく、持って帰る荷物に加えた所で迎えが来た事が告げられる。


「ルーカス様、馬車が到着いたしました」


「ああ。ありがとう。

 荷物を頼む」


「お任せを・・・」


 そんなに大量な荷物ではないものの、侯爵家の嫡男…荷物を自分で持とうとする事も出来ないので、任せ、自分の部屋から馬車が待機する場所へと向かったのだ。



 * * * *


 数十分後、ルーカスの屋敷に到着するとマジックバッグだけを持つ事にした。


「すまないが、そちらに入っている品が必要なのでな、

 私に持って行かせて欲しい」


「畏まりました。

 他の品は運び込んでおきます」


「頼むよ」


 その足で待っているで有ろう料理長の元へと向かい、廊下から声を掛ける事となる。


「メイスンいるかい?」


「おや、坊…ルーカス様ですか。

 もしかして…」


 危うく「坊ちゃん」と呼びそうになったが、寸止め出来、声を掛けて来た理由を予測。


 恐らく願っていた「試食」が出来るのだろうと思って確認したのだ。


「うん、弁当を持って来た下級生が予想して、

 用意してくれてたんだ。

 たった1個だけど試食してくれる?」


「勿論でさぁ」


 マジックバッグごと預かり、中から小さな三角の形をした暖かい品を受け取り、蝋紙ろうがみを開封する。


 ふわりと独特の香りがし、見た目で嫌そうな顔になるのだが、触ったら柔らか過ぎて形が崩れそうになり、慌てて口へと運び固まった。


(んなっ?!何じゃこれはぁ!!

 程よい柔らかさで塩の味はするものの、

 それ程こくなく、何故か甘味を感じる…。

 これが元は家畜の餌として売られていた物だと言うのか?

 信じられん…)


 リョータが用意したのはシンプルに塩結び。


 米の味がダイレクトに伝わると同時に、そんな味付けをしなくても食べられるんだと言う事を理解できるだろう、と踏んだからでもあった。


「メ、メイスン・・・?」


「・・・ルーカス様、こりゃぁ素晴らしい品ですよ。

 味付けは塩だけなのに甘味がある・・・

 本当に家畜の餌ですか?」


「うん、

 詳しくは教えて貰ってないけれど、

 家畜の餌として売られている品だとハッキリ言ったよ」


「・・・そうですかい。

 これはルーカス様が口にするんですかい?」


「一応ね。いくら何でも父上が、

 家畜の餌だったものを口にしないだろう?」


「そうですね。

 作り方を教えてくれる人は同級生ですかい?」


 どうやら試食が成功したようで、メイスンは作る気マンマン。


 今日から長期の休みで頼んだとしても授業などに支障が出ない事だけは把握し、ルーカスへ頼み込む事となった

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