第20話:ギルマスからの提案

 ギルマスを先頭にして2階の執務室へ到着すると、扉が開かれた。


 開いた先に見えたのは正面の窓際に置かれた机、手前に応接室に備え付けられていそうなソファー、右側には資料などを保管しているのだろう本棚が2列並び、左側には飲み物を用意できるよう整えられていた。


「ハンナさんとリョータ、

 大きい方に座ってくれ」


「はい」「はーい」


 ふかふかのソファーは座り心地、抜群ではあるが居心地は悪い。


「さてリョータの事を教えてくれるか?」


「一昨日の事ですが、

 リッツの森に薬草を採取するつもりで、

 冒険者の方を護衛に雇いまして、

 踏み入れたのですが、

 その奥地で彼を見つけたんですの」


「・・・見つけた?」


「えぇ。

 正確に言いますと、

 冒険者の方が彼を見つけたんですが、

 どうやら気付いた時には森にいたそうで、

 名前以外の情報をと言ったのです」


 転生者って事は気づかれないだろうけど、聞かれるだろうな。


「ふむ・・・自分で迷い込み、

 何処かに落ちた若しくは何かで頭を強打した事によって

 記憶を忘れてる可能性がある、と言う事か」


 あれ?聞かれずに推測してくれてる。


 これなら「判らない」で通せるか?


「真相は判りませんわ。

 何しろ、彼が気づいた場所は最奥近くで、

 最も危険な生き物が生息する地域に近い場所だったようですの」


 冒険者の男性が言ってた通り、俺が方向を決める時に使った枝が、反対に倒れていたら、俺の命なかったのかも知れないとか怖すぎる。


「リョータが気づいた時の状況、

 覚えているか?」


「んと・・・気付いたら周辺が木々で、

 明るく無かったし、

 人が通るような道も見えなかったから、

 人がいる場所に行きたいなって思って、

 川があれば辿り着けるかな~って思いで移動したの」


 マスターは「ある意味、知恵は記憶喪失になっていても覚えてるものか?」と呟いてるけど、詳細に言い過ぎたな。


「そうか良く見つけて貰えたな」


「うん!お姉ちゃんとお兄ちゃんが助けてくれたもん!」


「だったら、文字を書けるようになりたいなら教えよう」


「え?いいの?!

 僕、学校で覚えるつもりだったんだけど、

 教えてくれるの!?」


「ハンナさん、

 彼に読み書きを私が教えるのは駄目でしょうか」


「構いませんわ。

 彼は、この国に対して良い印象を持っていませんの。

 教えて頂ける方がマスターでしたら少しは、

 良い印象を持ってくれるかも知れませんわね」


 うん、あの領主で信用ガタ落ちだからな。


 落とされた場所が森だったのは偶然だろうけど、別の場所だったら違う印象だった知れないのにね。


「まあ、道具類はお下がりで悪いが、

 俺が使っていた道具を使えば良い」


 え?ギルマスが使ってた道具を貸してくれるって事?凄いな。


「教えて貰えるんだね?やったー!」


 学校で学ぶ前にマスターが指南してくれる事が決定した瞬間となった。


 とは言え文字は「日本語変換された状態」だったので「読める」事は気づいている、ただ「日本語しか書けない」状態だったリョータが「異世界の文字」を書けるか否か…が不安なだけである。


 宿泊空間で実験的に日本語を書いてみれば、異世界文字に変換されている…と言う現象に驚かず学べた筈なのだが、転生して数日と言う事と冒険者として活動できるようになる…と言う興奮とで「試し書き」と言う行為を行わず寝てしまう…と言う結果になってしまい、あとあと「日本語」が「異世界文字」に「変換される」と言う事に驚きフリーズしてしまうのは言うまでもないだろう

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