第199話:閑話~アンソニーは逃げ出したい(1)

 魔法学校での出来事がリッツェにも伝わり、あの少年を「逃がしてしまった」と深く、後悔の念を抱く者が執務室の資料を見ながら溜息を吐き出していた。


「はぁ~~~~~~~~~~~~~」


(あの時、

 保護した少年を我が息子として迎え入れておれば、

 どれほどの才能が開花しておったか判らぬな。

 それだけでなく、

 私の婚約話回避できたやも知れぬのに…)


 勿体ない事をしたな、と再び溜息を吐き出し、手に取った資料の重要性を確認。


「ん?

 これは…

 剣術と魔法の卒業式を行う、と言う通達ではないか」


 本来なら時期ではないのだが、領主は「もうそんな時期か」と疑いもせず、良く読み込みもしないで「承諾」の印をポン♪と押した。


 その資料こそ執事が練りに練った計画書であり、主人を追い詰め婚約「せざるを得ない状況」へと追い込む物だったと気付く事はなかった。



* * * *


 貴族令嬢たちに「お見合い」を行う事を通達し、会場は主人が逃げ出せないよう工夫すべく、私兵たちに逃げ場となる場所の封鎖を命じる。


「ああ、丁度よかった。

 旦那様が把握しておらぬ抜け道を封鎖して欲しい」


「ミラー様?

 一体、何事で御座いますか」


「旦那様の婚約者を選ぶ催しを行いたいと思い、

 計画したが、

 正直に婚約者選びの舞踏会などと言えば、

 旦那様が逃げるのは判っておろう?」


「・・・はい…。

 我々で抜け道になりえそうな場所を封鎖すれば、

 宜しいのですね?」


「済まぬが頼む」


「御意」


 命令ではないにしろ、領主を結果的に「騙す事」になるのだから何かしら言われ処分を受けてしまう「可能性」すら残っている。


 にも関わらず、執事からの願い事を叶えるべく動く辺り、流石である。


(そう言えば領主様は、

 記憶喪失の孤児を自身の子供に望もうとしたが、

 拒否されたと言ってたな。

 まさか、その子供が噂の子とは言わないよな?)


 彼の推測は正しいが、内密にされている事柄なので推測の域を出ない。


 先ずは子供が通れるくらいの抜け道から大人がコッソリ街へと抜けられる場所を手分けして封鎖して回らねばならない、と詰め所へと戻って行く。


 勿論、私兵たちの知らない抜け道はメイドや庭師に尋ね封鎖して行くのも忘れない。


 道だけでなく、当日は部屋に逃げ込み居座られないよう施す計画も立てておかねばならない。


 何せ「何年も婚約者を選ぶ舞踏会」を開こうとしても逃げ出し拒否し続けているのだから、確信犯的な行動を取る可能性も否定できない。


 こうしてアンソニーの知らぬ所で、外堀が埋められ、逃げるに逃げられぬ状況に追い込まれた

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