第178話:閑話~アヴェル領主の勘違い後・・・(2)

「ですがお父様!

 わたくしは侯爵令嬢ですわ!!

 地位がある者と無い者では差があるべきですわ!」


「・・・馬鹿者っ!」


「お、お父様ぁ?!」


「この手紙を読んでも未だ、

 侯爵令嬢だと言い続けられるか?」


 フェンリル欲しさに暴走してしまってる娘。


 執事を呼び、修道院送りの手配をする前に、事実を突きつけるしか無いと思い、王からの手紙を娘に見せた。


「一番、マナーが厳しいとされている修道院へナタリーを送る手配を・・・」


「・・・宜しいのですか?

 王家からの書状は旦那様宛てで御座います。

 読ませたと判ってしまいますと旦那様も…」


「それくらいの覚悟が無ければ見せぬよ。

 罪は私と娘だけで留まれば良い」


「ですが奥様は…」


「民に親しまれておるから大丈夫であろう?」


 自ら喜んで平民を手伝う変わり者な自分の妻。


 今日も困っているであろう老人宅へと手伝いに出ている。


 父から渡された王家からの書状を読み進めているであろう娘の顔色が、青から白へと変わって行く様は、他者から見ても明白。


 自分が何をしてしまったのか、ようやく把握できたらしい。


「お、お父様…そのっ…わたくし」


「・・・今更おそい。

 ナタリーが手配をした時点で歯車は狂ったのだ。

 レイラが戻り次第、

 お前は修道院で心身ともに鍛えて貰う事になる」


「あ、ああっ!それだけはっ」


「それだけの事をして罪を免れる…

 とでも思っておったのか?」


「・・・・・・」


 しゅん…と項垂れる姿は年相応な娘ではあるが、やらかした事は取り返しのつかない「罪なき人物を手配した」と言う事実。


 手伝いから戻って来たレイラは落ち込んだ娘と怒り心頭な夫を見て


「何があったか教えてくれないかしら?

 わたくしだけ何も知らないのはしゃくさわるわ」


 とねた。


「大まかに言えば、

 罪なき少年が使役してるフェンリルを

 ナタリーは欲しがり指名手配してしまったんだよ」


「・・・何て事。

 わたくしは、

 そのような身分を笠にするような娘に育てた覚えはありませんでしてよ?

 何時からそのような態度になったのかしらねぇ」


「・・・・・・」


 答える筈も無く、ナタリーはドレスをキュっと握り悔しがった。


「あら、

 未だフェンリルを得られなかった事を悔しく思ってるのかしら?」


「お母さま…どうして…」


「悔しそうな顔をしていれば判りますわ。

 冒険者と言う職業に付く、と言う事は、

 危険と隣り合わせ。

 自身の命だけでなく、

 使役した魔物の命をも守らなくてはならないわ。

 その守るべき者の中にわたくしたち爵位を持つ者も

 入っていますのよ?

 それなのに…。

 ナタリーは厳しいと言われる修道院へ行く事になるのかしら?」


「・・・そのつもりで手配した。

 そして私も罪を償うべく王都へ行くつもりだ」


「ナタリーにほだされましたのね?

 馬鹿ですか」


「うぐっ」


 呆れ切った声音で言い切られて反論できないクリストファー。


 娘を修道院へ行かせ夫を王都へ見送ったレイラは、民と共に畑を耕したりパンを焼いたりと自由を堪能する事になりそうだ

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