第1話:気づけば異世界・・・ここ何処だ?

 ごくごく普通の生活を送ってると自負しても良い鈴木良太35歳…未だ彼女なし。


 今日も今日とて、ホワイトで優しい会社から定時で帰宅する為に駅へ向かっていた。


「最近、小説みてっけど、毎日更新ってのは少ねぇよな…」


 小説…と言っても直木賞とか芥川賞などを取るような有名小説では無く、一般の…つまりは俺と同等の人が無料で投稿するような「ざまぁ」を好んで読むのだが…。


「・・・ちょっと本屋寄り道して、新しい発見でもするか」


 デートに金を使う訳でもなく、車に使う訳もなく、洋服もユニクロで済ませられるので蓄積されて行くだけ(たまーにワークマンで買ったりもする)。


 自室の本棚には無料サイトで気に入った作者が執筆した本が何冊も並ぶ。


 1人の作者が8巻とか13巻とか、超ロングセラー作品となっている為、数は多い。


「あぁ・・・冷蔵庫、そう言えば空だった」


 自炊はしてるが、そこまで凝った料理を作る訳では無いので、常に冷蔵庫が満員御礼状態ではないのだが、それなりに何も無い状態は自分が困るので、定期的に補充している。


 しかし、この時は買い忘れており、飲み物系しか残って無い事を思い出し、ガックリ・・・と肩を落として、夕方から割引が始まるスーパーへの横断歩道を青信号で進み始めた時だった。


「兄ちゃん危ない!」「へ?」


 年配の(と言っても、とてもダンディーな)男性から声を掛けられ、右を向けば猛スピードで突っ込んで来る車・・・あ、これ・・・避けらんねー、死んだ・・・と思った。



 * * * *


「いってぇ・・・ってあれ?

 確か俺って車に轢かれた筈なのに何で生き・・・ん?」


 撥ねられた!と思った次の瞬間には草むらに尻餅をついた状態となっており、自分の体を確認すべく手元を見た瞬間、違和感に気付いた。


 適度な余裕を持って作られている筈のユニクロの長袖ポロシャツが、ブカブカと手を隠してる光景に目が点となった。


「はぁ?!ちょっと待て!

 何で俺のシャツが大きデカいんだよ!?」


 シャツの右腕を持ち上げて見て更に驚いた。


「は?な・・・なっ?!

 何じゃこりゃぁ!!」


 ポロシャツの袖から出て来た手は、どうみても10歳くらいの子供の手。


 よく思い返してみれば、声も子供と思えるくらいに高い。


 カバンに入っているスマホで自撮り機能を使い、自分の顔を確認して更に目が点。


 そこにはガキの頃に「戻った」俺ではなく、スカイブルー色した髪色に緑の瞳を持った子供が映った(体系はガキの頃の俺そのまんま)。


「・・・マジか・・・」


 異世界転生や異世界転移を小説で知ってはいたが、いざ自分が「その立場に立つ」と、意外と冷静になるものだなと感心してしまった。


「取り敢えず、ここ何処だ?」


 周囲を見渡せば木・・・木・・・木。


 どうやら森の様ではあるが、それが「安全な森」なのか「危険な森」なのか判らないのだ。


(何にせよ、このままじゃ動けねぇな)


 鞄からエコバッグを取り出し、ベルトとスマホを入れ、袖を折って調整。


 次にスラックスは、子供サイズでは歩き辛い状態なので、足先から太ももに向かって折って調節する。


 靴は…裸足で歩くしか無さそうなので、そのまま袋に突っ込んだ。


 ズボンがズレそうではあるが現状、着用していたベルドはサイズ的に使えないだろうとおもい靴同様、カバンの中。


 どうしたもんかと思案しつつ、周囲をキョロキョロと見渡す。


 ・・・紐として使用出来そうな「蔦」でもあれば・・・ってあったし。


 だがしかし、切断する刃物が無い…と思ったのだが、都合よく程よい長さで切れて落ちていた、蔦「らしき」品を紐のようにしてベルトに通して何とか体裁を保てた。


「見た目、凄く変だが、現状じゃ仕方ないか」


 溜息を吐き出しつつも現状では何も出来ない状態な場所でもあり、危険かどうかも判らない。


 ならば移動すっかとエコバッグをリュックのように背負い、財布とか入れているカバンは斜めに掛けた状態のまま立ち上がる。


 はぁ…裸足で森を歩くって、すげぇ危険な気するけど、大人な足の靴だから脱げるし、かといって昔ながらな草鞋わらじだっけ?あれ、作るにしても材料が周辺になさそうだしなぁ…草で靴ぽいの作る訳にもいかんよな…(てか編めないし)。


 色々と考えはするものの、正解を出せないまま国なのか街なのか判らない森から脱出すべく、行く方向を前後左右…どちらに行くべきかと悩み始める。


 そして次なる悩みは人がいる地域が何処にあるかであり、其処そこが何処で何と言う場所かを知って、生活・・・と言っても10歳のガキじゃ働き口など無いだろうなと肩を落とすしか出来なかった。


 不幸と言うか不運と言うか…彼の不遇は始まったばかりとなるのだった

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