第317話:愚者の思惑~打ち破る者の存在

 盛大な雷がレイに落とされていた頃、残った職人のうち、馬車を担当する職人の中に「技術を伴わない愚者」がいる事に気づかなかった。


 クロフォード商会お抱え職人…と言う願ってもない肩書ほしさに、大した技能を持たないにも関わらず「残る事を決めた者」が2名、存在していた(らしい)。


 職人の為に住まいが用意されるなど、思ってなかった愚者2名は、どうしたものかと悩み始めた。


「おい、バッカー…どうする?」


「こんなオイシイ称号をみすみす捨てる何て、

 出来る訳ないだろう?アフォン」


 アフォンとバッカー、この愚者たちは、見た目では職人気質っぽいのだが、技術どころか「馬車を作った事も無い者」たちだったのだ。


 目の前にぶら下がった「喉から手が出る称号」欲しさに誓約をしたものの、どうにかして技術を盗み出すまで居座り、逃げ出そうと計画しているのだ。


「でも…バレれば記憶を消されちまうんだぞ?!」


「それでも称号は欲しいじゃないか!」


 危険を犯してまでしても、情報を盗みたいと思う程、愚者となり果ててしまった。


 そんな馬鹿どもに気づいたのは勿論、計画を持ち込み、訪れたリョータ。


 職人を馬車と魔法道具に絞って良かっただろうか?と案内された先でレイに聞かれた瞬間、不穏な思惑を持つ2名に気づいたのだ。


 おやぁ?偽物の職人が2人もいるなぁ…。


「リョータ殿?選択した職人で宜しいでしょうか…」


「うん、問題ないよ…

 でも、残っている職人さんの中に、

 情報を盗めないだろうか…

 と計画している人がいるよ?」


「なっ!?誓約書を書いて貰ったのに…ですか?!」


 気づかれたアフォンとバッカー…気配を消し、その場から姿をくらませるつもりで、ジリジリと逃げ出そうとしていた(リョータにはバレバレなのだが、気づいてない)。


「うん…拘束して大丈夫かな?」


「出来ればお願いします!」


 レイから許諾を得たリョータが、拘束バインドを完全無詠唱で発動させ、逃げ出そうとしていた、アフォンとバッカーを捉えた。


「「なっ?!何で見つかったんだ!?」」


 自分たちは完全に気配を消せていた…と思い込んでいるのだろう。


 捕縛されている状態が信じられないのだ。


「だって、あからさまに逃げ出そうとしてたし、

 他の職人さんは何を聞かされても良い状態で、

 待機しているのが見えたもん。

 そんな中、移動しようとしてる職人さん、

 2人だけだったけど?」


「「うぐっ」」


「他の職人さんは、合格だよ。

 この2名は誓約書に嘘を書いてるから、

 全ての事柄を忘れて貰おうかな…」


 捕縛状態で使った事のなかったスキル…断罪を完全無詠唱で発動させる。


(断罪…ついでに一部消去イレース


「「うぎゃぁああああああああああ」」


 断末魔…ではないが、何かが抜け落ちて行く感覚に襲われたアフォンとバッカーからは、恐怖の声しか漏れ出る事が無い。


 初めて使ったのだが、これは結構、使い道がありそうだ…とリョータが思ったのは内緒。


 職人の中でも嫌われていた2名だったのだろう。


 他の職人からは、冷たい視線「しか」向けられていない(当然の結末である)

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