第218話:討伐(3)

 前面に押し出されたリョータだが、万が一の事を考え剣は装備していた。


 あ~あ・・・俺しぃ~らないっと。


 スッ…と剣を構え、周囲を取り囲んでいた狼が物怖じするかの如く、耳を垂れさせジリジリと後退して行く。


「あれ?!

 どうして強い筈のレッドウルフが後退なんかして行・・・」


 ウルフの視線を追い、後方へ体を向けたA以上の候補生たちは、後方で守られてる筈のリョータが一気に間合いを詰め、ウルフに切りかかって行く様を目撃してしまう。


「え・・・」


 瞬時に右側から襲い掛かろうとしていたレッドウルフの集団に剣を振りかざし、次々と薙ぎ払って10匹の頭部を刎ねた。


「「「すげぇ…」」」


 殺す…もとい怪我を負わせるつもりで押し出した副団長は、呆けた顔でリョータの戦いを見ていた。


「・・・満足いく結果を見れたかね?」


 真っ青な顔つきになった副団長。


 リョータを「犠牲にして他の候補生を助ける」つもりだったのだから、それはそうだろう。


 あっ…と言う間に20匹以上いたであろうレッドウルフは骸と化し収納され、倒された形跡は綺麗に消え去っており、次なる魔物の方へとリョータが走って向かう背中を見つめるだけとなっていた。


「あ、あのっ…

 団長…奴は…いえ、リョータ殿は一体…

 何者なのでしょうか?」


「見たままだ。

 魔法剣士になる為、

 魔法学校に入学したが、

 強い秘密を知りたいと望む馬鹿どもの所為せいで、

 騎士見習いとして途中入学した10歳の子供。

 お前は何と答えたら納得いくのかね?」


 うっわぁ…デジャブ感、満載なんだが如何いかんせん、俺はベアと対戦せにゃならんからな。


 どんな顔してっか見れないとかせぬ!


 とは言え、どうせ同じような顔つきっしょ。


 魔術の同級生は「何者か?」と問われても「子供」だと答えても「記憶喪失」だと答えても納得する顔をしなかった。


 ならば今回の問いかけに対する答えも同じだと思ったのだ。


 異世界あっちの狂暴なクマ以上の体躯で現れたブラックベア。


 リョータのランクならば余裕で倒せる相手とは言え、初見ではあるが首を一気に刎ね、他の魔物が寄り付かぬよう即座に収納し危険は回避できた。


「団長さん?」


 討伐を終えたリョータが、言い争いを繰り広げている団長と副団長の元へと近づきながら声を掛けた。


「流石だな。

 もう戻るまでに危険な魔物は来そうにないか?」


「多分だいじょうぶだと思・・・

 「団長!生徒は無事ですか?!」」


「ああ!無事だが浅い位置で上位魔物が出た」


「なんですって?!」


「このまま議論しても危険な魔物が未だいる可能性がある。

 報告と対策を立てる為にも戻ろう」


「・・・同行した副団長は一体…」


「あぁ。

 強さを疑っていた候補生を犠牲にしようとしたが、

 失敗した事が信じられないって所だ」


 なるほど…と納得してっけどいいのかねぇ?


 副団長さんって2名体制だったんだ。


 こうなると問題を起こした副団長さんは処罰を受けちゃうだろうね(ざまをみろ)

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