第217話:討伐(2)

 周囲を20匹あまりのウルフに囲まれた状態で、臨戦態勢を整えている森とは裏腹に、宿舎へ応援要請を願われた候補生以下の者たちは、報告したくない1名と報告すべきと言う大勢の者とに別れ会話をしつつ戻っていた。


「なあ、アイツを陥れる為に応援を呼ばないって事、

 しても許されるよな?」


「そんな事してリッツェが危険な事になったら、

 俺たち…追放処分うけたりするんじゃ…」


「「それだけは避けたいな」」


「とは言え報告したくねぇ」


 1人だけ報告に異議を申し立てたのだが、多数決で負けてしまい、報告はする事にした。


 騎士団詰め所にいる騎士たちに


「騎士団長からの伝言で応援を頼みたいとの事です」


 と伝えると、もう1人の副団長が


「実践討伐で問題でも発生したのか?」


 と尋ねた。


「はい。私たち能力的に低い者では、

 対応不可能な魔物が発生したとの事です」


「そうか。良く知らせてくれた。

 皆きいたな?」


「「「はっ!」」」


 たった一言で装備を身に付け、一斉に詰め所から団長たちが向かうと告げた場所へと走って行く。


 その光景を見た騎士見習い以下の者たちは、自分たちは「確かに見習いにも劣っていたのだな」と自覚する程の素早さだった。


 他の適性を確認して貰う為、選定の儀が行われる場所へ荷物を持ち、向かう事にした者と、能力ナシと言われたにも関わらず、居座り続ける事を決意した阿呆とに別れ「これ幸い」と居座りを決めた者たちは詰め所の見学を実行し、居座りを諦める事となるとは思ってもいなかった。



* * * *


「来ます!」


 右側から一斉にウルフが飛び出して来て力が弱いであろう人物に牙を向けた。


「くっ!」


 飛び掛かりが重く、剣を片手1本で支えるのは難しかった人と、薙ぎ払い何とか最初の攻撃を交わせた者とに分かれてはいるが、リョータに攻撃が届く事はなかった。


 A以上の候補者たちは流石だな。


 とは言え命がけの実践討伐になるとは…ね。


 リョータの能力ならば多勢に無勢の状態にはなり得ないのだが、騎士としての所作を習い始めて年数が経過してない者にとっては、まさに死闘と言えよう。


 怪我人が多数、出てしまったら動くとするか。


 現状で少しでも動いてしまえば守ってくれる体制が崩れ、リョータ以外の騎士候補生の身に危険が生じてしまう。


 それを避けるにはギリギリまで待つ必要があると判断したのだ。


「リョ、リョータ…

 こいつら候補生だけで倒せると思ってるか?」


 小声で倒せそうか判断を仰ぎに来たのは団長。


 勿論、少ない頭数ならば対応可能だと判断は出来ているのだが、囲まれた状態での判断を今までした事がない故なのだ。


「・・・正直に答えていいなら無理だよ?」


 まさかの即答に驚いたのは、聞き耳を立てていたであろう副団長。


「なっ!?

 団長、リョータと呼ぶ、

 そちらの生徒は生意気すぎませんか?!」


「いや…彼を甘く見ない方がいい」


 団長さん、理由を聞かされてない状態で言うと不信感しか持たないよ?


 案の定、不信感しか抱けなかった副団長が、魔物を引き寄せる為だとばかりにリョータを前面に押し出してしまった

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