第26話:暇なの?

 未だ本調子で会話できない俺は、ギルマスが持って来てくれた紙を使った筆談を慣行する事となった。


「本当に済まなかった」


[・・・いくら心配だったからって、

 事ないよね?]


「うっ・・・」


 バツが悪そうになりながらも建物内に戻るギルマス。


 俺は依頼達成の報告をすべく、背伸びして、受付の女性に


 [ギルマスに殺され掛けて

  声が出ない状態なので筆談するね!]


 と書いて渡す(勿論、10歳が知り得る漢字や平仮名、片仮名が異世界文字に変換された状態でだ)。


「何してるんですか、

 ギルマスともあろうお方が・・・」


 あきれ返った溜息を吐き出され、ギルマスは・・・さらに顔色を悪くさせ私室がある2階へと戻って行く。


「声が出るまでは苦労すると思うけど、

 依頼達成の報告かしら?」


[んと、

 ギルマスが記憶を無くしてる僕の為に用意してくれた依頼書、

 それを受けて採取してきたの!]


 あぶね~・・・サラリー時代の言葉遣いで書きそうになった。


「あらまあ、採集依頼を持って来てくれたのね。

 依頼書は未だ持ってるわね?」


[うん!]


「依頼書と採集した品を持って、

 こっちに来てくれる?」


[はーい]


 俺の背丈では受付に届かないと見込んでくれた女性が、受付奥にある採集した薬草などを扱う場所へと連れて行ってくれる。


 机の高さは俺でも届くと感じ取ったからだと判断できた。


「まず依頼書を出してね」[はーい]


 同じ事を言う場合もあると思って、先ほど使った返事の紙を見せ依頼書を渡す。


「あら毒消し草を探しに出てたの?」


[うん、文字が読めるか試しに使ったのが毒消し草の採取だったの]


「そう・・・

 そんなに多く見つからないのに、

 良くギルマスが許可したわね」


[ギルマスからも見つかり辛いって教えて貰ってるよ?]


「ふふふ。じゃあ出してくれる?」[はい、どーぞ!]


 ドサっ…と50本もの毒消し草が目の前に出された瞬間、受付嬢は目を見開き「これは夢?夢なの?!」などと言っている。


 あ~・・・10本だけ出せば良かったか?


 でもな・・・生活資金、欲しいし…。


 この世界の価値が日本あっちと同じとは思わんけどな。


「ちょ、ちょっとケイト!来てくれる?!」


 あれ?他の職員さん、呼んだりして…きな臭い雰囲気になってきたぞ。


「なぁに?エブリン」


「こ、こ、これっ・・・」


 ガタガタと震える手で50本もの毒消し草を刺すエブリン。


 小山と化している草を見たケイトが


「きゃ~~~~~~~~!!

 な、な、何よ!この量!!」


 と最初の声を悲鳴だと「勘違い」した職員が、次から次へとやって来て、山になった草を見て仰天している。


「何事だ?このギルド始まって以来の快挙じゃないか!」


 へ?快挙って50本もの毒消しの量の事?!そ、そんなに取れないのか?


「これ程までに大量の毒消し草を見た事が無いわ!」


 うげぇ…やっぱ1束か2束くらいに抑えるべきだった。


「どこのパーティーが集めたんだ?!

 火炎か?雲の糸くず?それとも・・・」


[・・・すみません・・・僕が見つけました]


 混乱を収めるには「これ」しかないと思い、筆談の紙を冷静さを持ってそうな男性に渡した。


「は・・・?お・・・お前・・・が?

 と言うか喋れないのか?!」


[ううん、一時的に喋れなくなってるの。

 ギルマスに「殺され掛けて」・・・」


「「「オーウェンが馬鹿をやらかしたのか」」」


 あ、ようやくギルマスの名前が出て来た。


 そして「良くヤラかす」のか…。


「お前、名前は?」[リョータ!]


「リョータか、いい名前だな。

 この毒消しは何処で見つけた?」


[あのね門を出た先に森があるでしょ?あそこ!]


 場所は特定できても「何故」は聞かれないとは思うけど、ギルド職員総出で小山みてるって…暇なの?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る