第368話:職人を勧誘~side鍛冶屋(2)

 痛みが落ち着いたリョータと、顔面蒼白なウォーター。


 先に言葉を発したのはリョータだった。


「…えっと…鍛冶職人のウォーターさん…

 と呼んでいいのかな?

 僕の怪我は魔法で治したから、

 もう大丈夫だよ?」


 何故、そんな話し方になったか…と言えば、ウォーターが土下座をしていたからだった。


「そうは言っても相手が誰かを確認しないまま、

 商売道具とも言えるハンマーを投げたら駄目だろう?」


 バツが悪そうに顔を上げつつ、その場に胡坐あぐらをかいた。


「そりゃぁ…商売道具って言うのを投げたりしたら、

 駄目だって師匠とかから言われてないの?」


「・・・言われた・・・」


「言われて依頼に来たかも知れない人に投げて来た…

 と言う事は、これまで訪問した人、

 全員に投げてたって事でしょ?

 それで怖がらせて近寄らせなかった…

 違うかな?」


「うっ」


 図星を付かれてしまったのだろう、反論が出来なさそうだった。


「僕が魔法学科で如何様って言われるくらいの魔術、

 持って無かったら子供虐待で罪に問われてたかもよ?」


「そ…それはっ」


「治療魔法、持ってたからいいけどさぁ…。

 で、僕と交渉して貰えるのかな?」


「…ああ…何が目的で来たか教えて欲しい」


「まずヘンリーさんからの紹介で来たんだけど、

 口が堅くて職人気質…鍛冶に関する事ならベテラン…

 間違ってない?」


「ああ」


「新しい鍛冶技術を知れると言ったら、

 誓約せいやくが掛けられたとしても知りたい?」


 新しい鍛冶技術…と聞いて目を見開き


「せ、誓約が掛けられるって事は…

 門外不出な品を作れるようになる…て事か?!」


 とリョータの胸倉を掴み、顔を近づけた状態で問いかけて来た。


「うっ…うん…そうなる(ち、近すぎ!)」


「今すぐっ…今すぐ誓約をしてくれ!」


「(ぼそ)人の話を…

 (大声)人の話を聞けぇぇぇぇっ!」


 ちょっとばかり強めのスタンガンを発動、掴み掛かっていたウォーターが静電気を感じて離れたが如く、後ろに飛んだ。


「うわっ!」


「誓約はするから人の話を聞いてからにして下さい。

 これから案内してもいいけれど、

 クロフォード商会のお抱え職人になるんですからね?」


 有名なクロフォード商会で、馬車や魔道具の職人が「お抱え職人」として選ばれた人がいる…との噂は聞いていた。


 まさか自分が「お抱え職人」になれるとは思っていなかったウォーター。


「わ…儂が…お抱え職人?」


「そうですよ。

 僕から話を聞いて誓約したらなってしまいますよ?

 誓約したら工房にも戻れなくなりますし、

 生活場所もクロフォード家の敷地になります。

 それでも誓約して話を聞きますか?」


 工房は畳まなければならなくなるが、生活の保障はして貰えそうだ。


 お抱え職人になる…と言う事は、他の依頼は一切受けず、クロフォード家で行われるであろう新たな技術に集中して取り掛かれると言う事…一瞬の内に算段が出来たのだろう、晴れやかな顔つきで


「聞かせて欲しい」


 と伝え、鍛冶職人の勧誘に成功したのだった

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