第332話:先ずは実物の確認から…

 作業空間に職人たちは、馬車の基本な品を作れるようにと、次々道具を置いていた。


 魔道具を設置するにはこの形なら…此処ここでも無い其処そこでも無いと紙面上で設置場所を話し合っているのは、作業空間に作られた話し合いスペース。


 基本図案に書き加えるのではなく、丁寧に薄紙に書き写し、それを更に厚手の紙片に書き写して色の違うインクを使い書き加えているのだ。


 リョータとしては、基本の図案を使って書き写して貰っても構わなかったのだが、職人が良しとしなかった。


「白熱してるね…」


 遠くから、その姿を見たリョータの感想に、苦笑を漏らすしか無いレイ。


「リョータ殿は職人の凄さすら初めて見るのですね…」


「ああ、そうか。これが職人の本気って奴だな。

 なら職人に実物がある旨を伝えるのはレイさんがするのか?」


 作業空間入口に入って扉を閉めているので、何を話しても外には漏れない工夫はされているらしい。


 だからこそ実物を出しても驚かれないと踏んでの問いかけだった。


「…流石に私が言った方が驚かれる度合いは低いとは思いますが…

 提案者が…と言った方が良いかと…」


 まあ、そうか…と納得し


「話し合いしてる職人さんたち、

 聞いて欲しい事があるから集まって」


 レイさんが未だ丁寧な話し方になっているのを訂正するより先に、動いた方が良いだろう、と考えて職人たちを車を出しても危険が無い場所へと集まって貰った。


「あの…我々は貴方の事を何とお呼びすれば宜しいのでしょうか?」


レイが丁寧な言葉を使う…と言う事は年齢的に上なのだろうか?と言う考えに至ってしまうのも仕方ないだろう。


「見た目、子供で話し方が大人だから…って言っても、

 流石に今は子供だからな。

 子供に接する言葉遣いで構わない。

 とは言っても俺ですら子供な話し方が合ってないけどな」


 自虐的な発言をしてしまうが、その場が少しだけ和んだ。


「じゃあ普通にしていいんだな、で?

 何を話すつもりだ?」


 ウィリアムが問い返した。


「俺が転生者ってのは話したけどな、

 何故か俺の世界の神々がヤラかしてな…

 異世界にしかない品を送り付けて…

 有効活用してくれと託されてしまったんだ。

 って事で紙面上だけでなく、見本として、

 そこに書かれてる品に近い見本が出せるんだが

 見た「見させてくれっ!」…いよなって、

 食いつき早いはえぇな」


 苦笑はするものの、実物を見れば魔道具の位置を決定できるかも!と言う道具職人と、形的には馬車だと言われたが、本当に馬車が基準でいいのか?と言う疑問を解消できる!と言う馬車職人が目をキラキラさせ待ち構えている様には、レイもドン引きだ。


「さ…流石に初めての品を作る時の職人って…

 これほどの熱量を持つのだな」


 と頓珍漢とんちんかんな感想を抱いたものの、レイ自身も見たい欲は抑えられず、どんな品が出されるのか…とワクワクした顔になっているのに気づいてなかった。


 どれだけ楽しみにしてるんだか、判るってのも…どうだか…はぁ

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