第136話:多くの犠牲(1)

 冒険者ギルドに向かいつつ周辺の景色を見るのだが、至って普通。


 何の変化も無い状態なのだ。


 おかしい・・・。


 人々に危害が及んでいる様子を察知したのは勘違いか?!


 半透明の地図を目の前に出し、検索サーチを掛けてみた。


 するとアヴェル側の門周辺に赤い印が付き、解説には「死亡者」となっていたのだ。


 はぁ?!死人が多いって出たけど、何で危険察知が反応しねぇんだよ!


 危険察知が反応するのは、悲鳴を感知した時であって悲鳴すら出せない状態で殺されてしまっては反応は出来ないのだ。


 ギルドに到着すると直ぐに受付へ向かおうとしたのだが、小さな女の子が必死の形相で受付嬢に何かを訴えようとしているが気付いて貰えてない状態だった。


(どうしよう!どうすれば気付いて貰える?!)


 リョータは女の子の傍まで行き、同じ目線になって


「どうした?」


 と優しい目つきで声を掛けた。


「あ、あの、あのねっ

 怖い人が孤児院に血の付いた刃物を持って向かったの」


 その声に反応したのはBからSまでの冒険者で、グルンと顔を声がした方へと向けてくれた。


「よく知らせてくれたね。いいかい?

 このギルドから絶対に出たら駄目だよ?」


「でもっ…シスターや友達がっ…」


「心配なのは判るけど、

 君が傷ついてしまったら友達もシスターも泣くからさ、

 どんなに心細くても絶対に出ないでね。

 悪い人を追い払って安全だよって

 言いに来るから待っててくれるかい?」


「っ…うんっ・・・」


 きっと怖い思いをしたのだろう。


 リョータが抱きしめると、安心したかのように脱力してしまった。


「聞いていましたね?

 相手は助けを求める声を出す前に、

 絶命させている可能性があります。

 皆さんの力を貸して下さい」


 女の子を受付嬢に託しながらリョータは、周囲に集まって来た冒険者たちに声を掛けたのだ。


「勿論だとも。

 相手が狂暴な人物ならば、

 俺たち冒険者が討伐対象として

 倒さなければならんだろう」


「意思を持った魔物など皆無な事からすれば、

 襲撃してるのは人だろう」


「どれ程の被害になってるか判らんが、

 倒さなければ更なる被害になるのは判り切ってるからな」


「ギルドから緊急事態発生を領主様に知らせる魔道具を発動させます。

 相手が気づく事はないとは思いますが、

 皆さま、どうか気を付けて…」


 約10名の猛者たちが一斉に首を縦に振った。


 そして何処に被害が出ているのかを確認すると同時に、町中へと散って行ったのだ。



 * * * *


 ジャーチは孤児院に到着すると祈りに来た風を装って中へと入って行き、祭壇の花を変えていたシスターを斜めに切り捨てた。


 声を上げる事も出来ず、その場に倒れたシスター。


 リョータを助けたハンナは休暇で実家へと戻っている為、殺されずに済んだのだが交代要員で来たシスターが犠牲となった

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