第274話:閑話~大行列の雑貨屋

 リョータが鉱山へ向かった頃、オネェさんがいる雑貨屋には大行列が出来、大騒ぎな状態と化していた。


「んもぉー!どぉして、こんなに忙しいのよぉ!」


 次から次へと爵位を持つ家の家令やメイドなどが主人からの依頼と言い、余り仕入れていなかった品が欲しいと願い出て手に負えない状態となっているのだ。


 その状態になった一番の原因はフェルナンデス侯爵。


 フェルナンデス家の長男、ルーカスがリョータの食した白い三角形の品を食べたい…と願い、料理人が習って家族が味に感動し、彼(リョータ)が料理人に残して行った10キロの家畜の餌が米飯として毎日のように消費され、追加の米を買いに行ったのが最初のキッカケ。


 勿論、リョータが教えたのは「炊き方」だけ。


 「食べ方」を教えた訳でも無いし、米にする方法すら教えて無いのに何故か、フェルナンデス家の食卓を毎日飾るほどになってしまった。


 その噂は瞬く間に爵位を持つ家に伝わり、一代ブームとなり、更には蝋紙ろうがみにも広がって現在に至っているのだ。


 米に関してはフェルナンデス家以外、キロ単位での購入ではあるものの、10や20ではなく1や2。


 恐々買って行く状態で、それ程大量に消費されては行ってない。が、蝋紙の方は折り紙(15×15センチ)からA6(105×148ミリ)が良く出て行き、オネェの体1つでは足りない状態となってしまっていた。


 体力的に限界が近づきつつあり、重さ10キロの米を持とうとして落としそうになった。


「きゃっ…」


 寸での所で誰かの逞しい腕が、その米袋ごとオネェを支え


「そんな細腕じゃ持って行けないだろう。

 この品は中で良いのか?」


 と言う声が掛けられた。


 勿論、米袋は男性が抱え込み、見つめあう形で会話を交わしている状態。


「えっ…えぇ。中に運んで行こうと思ってましたの」


 すこぶる美人に見えるオネェ…サミュエル・ファーガソンは元男爵子息。


 男として生まれたのに女性としての遊びやら礼儀やらに興味を持った為、廃嫡され平民として生活せざるを得ない状態とされたものの、前向きな性格と商品を見る目があった為、雑貨屋を開業する事で生活を賄って行く事にして現在に至っていた。


 ファーガソンを名乗る事を許されてないサミュエルはサミーと言う女性名で商人登録している。


「この1つで運ぶのは終わりですか?」


「えぇ、もう家畜の餌として仕入れた袋は、

 それが最後ですの。

 蝋紙は露店に売るくらいしか入れて無かったし、

 此処まで売れるようになると思ってなかったわぁ」


 米袋を運んで貰ったサミー…見つめる瞳は正に乙女。


 リョータ以上に「どストライク」なイケメンが手助けしてくれた事が信じられなかった。


「今度からは持って来てくれる方に直接、

 中に運んで貰うよう頼んだ方が良いな。

 それに1人で店を回すのは無茶だ」


「お気づかい有難うねぇ。

 中身がオトコだから寄り付かないのよ」


 自虐的に白状したサミーだったが、手伝った男性の目が驚きと戸惑いと愛しさが見隠れしていた。


「ふふふ。でも助かりましたわ」


 ペコっと頭を下げ、人の流れが少しだけ、途切れたのを見計らって午前中の販売終了の札を入り口に掛けに行く。


「昼休憩ですか?」


「えぇ。流石に朝から慌ただしくて、

 食事の時間が取れなかったのよ。

 買い出しに出るくらいの時間を貰うつもりよ。

 運んでくれて有難う」


 柔らかく微笑んだサミーに惚れたイケメンとの恋が発展しそうな予感が漂って行くのであった。


 (BLめいた展開になるかと思われそうではあるが、後々、奇跡的な事が起きる事となるのは未だ気付いてない)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る