第68話 焉獄鳥

 このステータスにアビリティ。

 一体どうなっている……?

 見覚えのあるようなステータスだ――そうかドラゴンか。あれのステータスに近い。


「ほら、これを使え」


 頭の整理が追いついていない中、ギルマスから何かを投げられて反射的に受け取る。

 木剣であった。


「模擬戦だからな。しかし、殺す気でかかってきていい。魔法もありだ」

「いや、ちょっとたん」

「いくぞ!」


 人の話を無視してギルマスが突っ込んできた。

 早い――が、


「え?」


 左から横に剣が振られる。と脳裏によぎる。

 視界にギルマスの影のような靄が映り込み、反射的にそれを避けた。


 瞬間、俺の鼻先を風が切る。


「避けたあ!」

「ツムギ様すごい!」


 マティヴァさんとオウカの驚嘆が聞こえた。

 ああ、今俺避けられたのか。


 再度、視覚に靄が映る。ギルマスが俺の死角に潜り込み、下から顎を一突きする動作。

 俺は身体を捻らせて、右へと反らす。

 同時に下から突き上げられた木剣が衣服を掠めた。


「ほう」


 ギルマスが一度後方へと飛ぶ。


「一度ならまぐれだったが、二度避けるか」


 少しばかり嬉しそうな表情のギルマス。

 俺は俊敏性の差で動きが読めてしまったのだろう。

 問題はどうしてそんなに俊敏性が上がってるのかだが。


「いいだろう、遊ぼうと思っていたが、誠心誠意ギルマスとして全力を出そう!

 アビリティ――焉獄鳥ニゲルプタ


 ――瞬間、ギルマスの全身が黒い炎で包まれた。


「ぎぃちゃんアビリティを使うのぉ!?」


 マティヴァさんの驚いた声が耳に入ってきた。


「なんですかあれ!?」

「焉獄鳥……あれは全身を炎にして戦闘するアビリティよ。ただし、あの炎はぎぃちゃんにしか消せないの」

「つまり、一度でも攻撃を受けたら……」

「死んでもなお燃え続けるわ」


 オウカとマティヴァさんの会話から厄介な内容が聞こえてきたぞ。

 さすがに消せないとなるとまともに食らうわけにはいかない。

 こちらもなにかスキルを――


「行くぞ」


 声と同時に、ギルマスが眼前に現れた。

 ――動きが見えなかった、だと。

 黒い拳が――来る!

 ええい、ままよ!


「スキル――竜威ゲウ!」



 ――――――――ギルマスの動きが止まった。

 


 目の前で揺らめく黒い炎に、俺は息をのむ。

 しかし、すぐにそれが遠ざかった。ギルマスが後方へと下がったのだ。


「ぎぃちゃん?」


 マティヴァさんが首を傾げている。

 その隣にいたオウカは――毛を逆立たせていた。

 頭巾から覗かせた耳が、フードから飛び出した尻尾が、オウカの緊張を体現している。


 なんだ、このスキルはなんの効果を及ぼしたんだ?


 ギルマスは……呼吸を荒げて俺を見ていた。

 唇を微かに開いて、呟く。


「お前は……何者だ?」


 ……いや、ただの冒険者だと思うけど。

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