再会(ダンジョン)
第256話 捕食者
***
真夜中のダンジョンは人が少ない。というかまったくいない。
人が少なすぎるのは助けが呼べないなどリスクがあるのだが、いろいろと隠したい年頃の俺としては好都合だ。
冗談はさておき、オウカがお泊まり会でレルネー家に行ったので、俺はカンテラ片手に一人でダンジョンへ潜っていた。
いや、正確には一人ではないのだが。
3階層の最奥部にたどり着くと、相変わらず魔法陣が青く光っている。
これはクラスメイトの転移魔法陣らしい。レイミアに教えてもらった。
深くまで潜る場合は一定の層ごとに転移魔法陣を設置して、緊急の際にすぐ戻れるようにしているのだとか。便利なものである。
だから一か月以上も潜っていられるのだろう。
今回はその魔法陣を借りることにした。躊躇いなく踏み込む。
視界が一瞬反転して目眩に襲われるが、すぐに足元の地面の感触を確認する。
視界の景色は一変した。低層は人が作ったかのように整備されつくされていたが、今の階層は洞窟と呼ぶべきだろう。
天井から水滴が一定のリズムで落ちてきて、それ以外には何も音がしない。
ここにもモンスターがいないのか。あまり深い階層ではないのかもしれない。
だが、人もモンスターもいない場所を求めていたので丁度いい。
俺はある程度歩みを進めて、少し広い場所で立ち止まる。
そしてカンテラを前に掲げた。
「いるんだろ? そろそろ出てこいよ、マスグレイヴ」
すると、ダンジョン内に笑い声が響き、同時に俺の影が前へと伸びてきた。
それが立体的に浮かび上がると、俺の姿をしたマスグレイブが現れた。
「何用かな? 人類の捕食者よ」
「いや、すっかり忘れてたからそろそろ声かけないといけないかなって」
マスグレイブが最後に出てきたのは竜の心臓に取り込まれそうになった時だ。
その後はバタバタとしていたから放置していたが。
「自分の影に竜が住み着いているのを放置するわけにもいかないからな」
「特に問題はなかろう? 我輩は今のところ危害を加えておらぬ」
「まあな……あの時は助けてもらったし、何もする気がないなら構わないとも思うが。
そういえば、あの時、竜の心臓を回収しそびれたな。あれも放っておくのはまずいか」
「それならここにあるぞ」
マスグレイブがこちらに投げ飛ばしてきたものを受取る。
赤と白で模様ができた宝石。間違いなく竜の心臓だ。
「貴様が忙しそうだったので回収しておいたぞ」
「何から何まで悪いな……もしかして奉仕するのがお好きだったり?」
「喰らうぞ?」
冗談はここまでにしておこう。
ダンジョン内をさらに進む。マスグレイブは俺の影だから勝手についてくる。
「で、なんでお前は俺の影にずっといるんだ?」
「貴様が我輩の興味に触れたからだ。面白いものを近くで見たいという気持ちは、人類も同じであろう?」
「興味っていうと――絆喰らいか」
「左様。貴様は我輩と同じ喰らう側である。
我輩は影の捕食者。
そして貴様は、絆の捕食者」
「つまり、お前の能力は『影喰らい』と言ったところか。
まさか、喰らいの能力……捕食者は他にもあるのか?」
後ろにいたマスグレイブに振り返って問うと、竜はにたりと笑みを作る。
「捕食者の力はいくつかある。
そしてそれら全ては、神に触れられる権利である」
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