第195話 匂い
「ぁぁ^〜〜ああああぁぁあ!!」
奇声をあげたのはライムサイザーだった。
「いた! ついに見つけたぞ!」
運命の再会とでも言いたげに、両手を上へと上げている。
それよりも、なんで急に擬人化が解けたんだ。
「つ、ツムギ様」
オウカが顔面蒼白でこちらを見る。そりゃそうだ、魔法を掛けていたのは俺だ。
しかし、これだけ生徒が集まっているなら、魔法効果を打ち消すアビリティを持つ者がいてもおかしくないのか。いやだからといってこのタイミングで発動するのはおかしい。
考えていると、生徒会長が俺のことを睨んでいるのに気付いた。
どういうつもりだと。
俺にも分かりませんと首を横に振る。
「ドッキリとはぁ、人間もふざけたことしますねえ。
まあいい、ではその妖狐族をこちらに」
ライムサイザーが腕を伸ばしてくる。
俺はオウカを守る様に前に立った。
「はぁ、そこの暗そうな人間さあ、無知なの?
妖狐族って人類に嫌われてるんでしょ?
それを守ろうだなんて……。
ほらぁ、みてご覧よ周りをさあ!」
観客席の生徒達が俺のことを冷ややかな目で見ていた。
妖狐に驚くもの、それを守る意味が分からないといったもの、見ないように目を瞑るもの。ざまざまな視線が俺に向けられていた。
「なるほど、お前は邪視教か」
ライムサイザーの言葉が、周りの口を開かせた。
「なんで妖狐族なんているんだ」
「Gクラスのあいつが連れ込んだんだ!
やっぱり何かしてやがった!」
「おかしいと思ったんだよ、Gクラスが第三位を倒すなんて!」
空気が疑惑を確信めいたものに仕立てあげ、ありもしない妄言を吐かせる。
愚かだ。なんでこんなにも脆いんだ。
ちらりとエルを見た。彼女の言葉なら場を沈められるのではないかと。
しかし、彼女は親衛隊らしき男達に囲まれて守られていた。その男達も騒ぎ出す始末で、彼女の声はもう届かないだろう。
「妖狐族と目を合わせるな! 呪われるぞ」
「どうしよう、さっきまであの妖狐近くにいたよ! 触られてたらどうしよう」
「殺せ! 早くそいつを殺せ」
大きくなる声が、周りの意見を一致させる。それを促したのはライムサイザーだった。
「はい皆さん、俺様は邪悪なる邪視持ちの妖狐を排除するべくここへ来ました!
今まここでその女を差し出すか、殺してくれればそれで終わりですよ!
はい! こ・ろ・せ! こ・ろ・せ!」
協調して生徒達の声が重なっていく。
「こ・ろ・せ! こ・ろ・せ! こ・ろ・せ!」
見なくても、後ろでオウカが震えているのが伝わった。
妖狐族がどれくらい嫌われているかを俺は知らなかった。
いままで、ギルマスやマティヴァンさん、シオンはなんだかんだ受け入れてくれた。
実は噂だけが広がり、理由もなく嫌われているんじゃないかと、実際妖狐にあっても少し驚くくらいじゃないかと、そんな甘い妄想を抱いていた。
まるで魔女裁判だ。
疑わしいだけで殺す。そんな野蛮な状況だ。
この1ヶ月、妖狐族のことはよく調べた。
邪視という存在がいかに危険で、それを持ちながら操る唯一の種族として描かれていた。
俺はこの世界のことなんて何も知らない。だから鵜呑みにはしなかった。
だが、一度でも広められた悪評はそう簡単に拭えないのだろう。そして、拭うものもいなかったのだろう。
オウカがこれからも生きていく世界は、こんなにも彼女に残酷なのか。
「俺がぁ!」
一人の生徒が観客席を越えて場内へと入ってきた。
その手には火球が発動されている。
俺はすかさずオウカを守るように移動した。
だが、ゴウッと大きな音がして、一瞬にして目の前の男が灰になった。
炎が横切ったように見えた。
その光景に、誰一人声を上げなかった。
否、上げられなかった。
背筋を這う悪寒。
首元と、心臓と、眼球の裏を熱気に掴まれたような、気色悪い感触が神経を伝う。
しかし俺が発動したものではない。
「ん、まあ、下等生物らしいか」
ライムサイザーの横に、白い亀裂。
そこから、赤い髪の、裸の男が出てきた。
「ベリル……!」
「ん、まあ、やっと匂いが消えたな、お前」
ベリルが俺を見て口角を吊り上げる。
匂いって何のことだ。いや、先月の時に言っていたやつか。
ドラゴンの匂いだったか――
「ま、さか!?」
俺はステータスを開いた。
◆ツムギ ♂
種族 :人間
ジョブ:魔法師
レベル:58
HP :430/430
MP :860/860
攻撃力:580
防御力:640
敏捷性:580
運命力:58
アビリティ:異言語力・異界の眼・絆喰らい・精霊言語・精霊魔法
スキル:上級火魔法・上級水魔法・上級風魔法・上級土魔法
‐:ソ・リー
「お前……ドラゴンは」
「ん、まあ、エレミアは――殺した」
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